開戦から3年を迎えるにあたり、ウクライナ戦争における様々なミームを前編で取り上げた。その中で戦争最初期のミームとしてロシア軍の航空機を6機撃墜したウクライナ空軍パイロット「キーウ(キエフ)の幽霊」を挙げた。
ウクライナ戦争に関するミームの中でも著名なもので、世界的にも知られたミームとなっているが、このミームの拡散には1人の日本人も関わっている。
漫画同人作家の松田重工氏が発表した、キーウの幽霊を題材にした同人誌『キエフの幽霊』が国内外で評判を呼び、ウクライナ語や英語に翻訳されて出版された(作中ではロシア軍視点なので、キーウでなくロシア語読みのキエフと表されている)。
ウクライナ国内でコミックのベストセラーとなり、更にはウクライナ軍のザルジニー総司令官(当時)も自身のサイン本を手に取っている。
1人の同人作家の同人誌がウクライナでベストセラーに。戦争とそのミームが生んだ数奇な話であるが、そこに至る経緯や裏話を当事者である松田重工氏に伺ってみた。
「翻訳させろ」と外国人アカウントから次々と連絡が
――なぜキーウの幽霊をテーマに漫画を描かれたのですか?
松田重工さん(以下、松田) 戦争が始まってすぐにウクライナ空軍が全滅するかと思いきや、いきなり1人のパイロットが6機撃墜とか、あれを聞いたら心を掴まれますよね。3日で終わると思われていた戦争でですよ。
――侵攻直後は、ウクライナ空軍は早々に作戦能力を失うとみられていましたね。
松田 ロシア兵なんかレストランの予約取ってましたからね(注:NHKスペシャルで報じられた、ウクライナ大統領府近くのレストランをロシア兵が侵攻開始から数日後に予約していた事)。
それで飛行機の絵を描いとくかって描いたら、それがもう意外と評判がよくって。ちょうど、その頃から短編ストーリーを描きたいと思っていたんです。人間ドラマのない戦争漫画で、シンプルなやつを5月のコミティア(オリジナル創作限定の同人誌即売会)も近いし、会場限定12ページのコピー本を出すか、というノリでした。
まず2、3ページ描いたら筆も乗ってきて、20ページくらいの作品になりそうでした。ネームを描いて出来たやつからとりあえずTwitterにアップしたら、一気に拡散してしまって。まだ出来てもいないのに、「翻訳させろ」と外国人アカウントからあちこちきました。