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経営の目的と化した終身雇用

 では、この現象を経営の側からみるとどうなるのか。

 会社とは、そもそも利益を生み出すためのフィクションに過ぎない。終身雇用も年功序列も、かつて利益を稼ぎだすために有効な仕組みだったというだけだ。しかし、利益を作る手段に過ぎない会社組織を維持することが、いつの間にか目的に転じた。終身雇用や年功序列が手段ではなく、経営の目的と化したのだ。

 確かに終身雇用と年功序列は、労働者にとって「甘い囁き」だ。世の中が不確実になればなるほど、失業が回避され、少しずつでも給与や肩書が上がる可能性がある会社は、魅力を放つ。

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©iStock.com

 年功序列の階段を上ってトップに立った経営陣からすれば、終身雇用と年功序列のシステムを守ることは、自身のアイデンティティを支える基盤だ。年功序列のシステムの中では、「経営トップになること」が目的となり、「経営トップとして何をするか」は置き去りにされてしまう。

 終身雇用や年功序列を維持するという先輩や後輩たちの期待に応えることを最大の責任と考えるようになっても何ら不思議ではない。

 終身雇用と年功序列の維持を目的として、会社が回るならそれも一つの選択だろう。

 しかし、利益が出なくなれば、会社というフィクションは、途端に崩れてしまうのだ。赤字が続けば、終身雇用も年功序列も吹き飛んでしまうのだ。

3メガバンク合計で3.2万人超の人員削減の衝撃

 たとえば、みずほフィナンシャルグループ(FG)は、2017年11月、組織構造を大幅に見直す計画を発表した。7.9万人の行員のうち1.9万人を2026年度末までに削減、約500店ある店舗も24年度末までに約100店舗減らすという。三菱UFJフィナンシャル・グループと三井住友フィナンシャルグループも、これに追随し、3メガバンク合計で、3.2万人超の人員が削減されることになった。

©共同通信社

 フィンテックという技術革新と間接金融のシステムが限界を迎える中、銀行は、今後も利益を出せる体制を維持できるのか、瀬戸際に立たされている。

逆ピラミッド会社が終身雇用と年功序列を崩壊させる

 メガバンクが、付加価値を生まない逆ピラミッドの子会社や関連会社を維持し、金利と引き換えに、取引先に役員を送り込む余裕は早晩、失われてしまうだろう。

「天国のような牢獄」である逆ピラミッド会社は、雇用の安定と能力を発揮する可能性を交換する甘い罠だ。しかし、この甘い罠は付加価値を生まない「おじさん」を大量に再生産することで、その目的である終身雇用と年功序列、そのものを崩壊させようとしている。それだけでなく、日本経済の成長すらも鈍化させているのだ。

 三菱UFJ銀行の三毛兼承頭取は『文藝春秋』10月号の「三菱UFJ頭取『さらば年功序列』宣言」の中で、いま変わらなければ銀行は“絶滅”する、として、「『職能』ではなく『職務』(スキルや知識、専門性)をもっと重視する人事運営にシフトし、スペシャリストを出世させていく。ゼネラリストが順繰りにポストに就き、出世していく時代は終わりにしたいのです」と表明している。

三毛頭取 ©文藝春秋

 これが実現すれば年功序列の終わりの始まりとなり、逆ピラミッド型の子会社も、いずれは必要なくなるだろう。ただ、三毛頭取が指摘するように「志を持った若手を、一部の保守的な上司たちが邪魔をしているという現実がある」のがメガバンクの実像なのだ。三毛頭取の改革が本当に実現し、三菱UFJ銀行が生まれ変われるのかどうかに、注目したい。

「寄らば大樹」は、もはや難しいという1984年の日経社説の指摘は、30年以上の時を経て、ようやく実現しようとしているのだ。