コッポラ、スコセッシ、スピルバーグ……映画漬けの若者が次々と抜擢された
芝山 今回は編集部からの提案で、「70年代のアメリカ映画について語り合う」というのがテーマなんです。というのも、1978年の『ディア・ハンター』(マイケル・チミノ監督)に登場する鉄鋼労働者の主人公たちが、去年から買収問題で話題の「USスチール」とおぼしき製鉄所の作業員なんですね。舞台はペンシルベニアの田舎町クレアトン。いわば「普通のアメリカ」、「正直で鷹揚なアメリカ」の心の故郷みたいなところです。一方で、トランプ大統領の右腕であるヴァンス副大統領が自身の青春を描いた回想録『ヒルビリー・エレジー』でも描かれたラストベルトの労働者の町でもある。つまり、この時代の映画には、その後にやってくる新自由主義の波に翻弄されて、理想も希望も洗い流されてしまう2000年代以降の「分断のアメリカ」を理解するのに欠かせない原点があるのではないか、というのが編集部の見立てですね。
まあ、この見立てが的を射ているかどうかはちょっとわかりませんが(笑)、私も70年代のアメリカ映画には親しんできましたし、あの時代の映画に精通しておられる原田監督とぜひお話ししてみたいと思って、今日は参りました。原田さんは70年代前半、すでにアメリカで映画の仕事をされていたんですよね。
スコセッシが劇場をうろうろ
原田 はい。73年に渡米し、70年代のほとんどをロサンゼルスで過ごしました。なので、70年代の映画は自分の血肉になっています。
当時は「ブラックスプロイテーション」というジャンルが流行していました。黒人俳優や黒人監督が黒人向けに作る大衆映画ですね。僕も“これは黒人街に行って見なきゃしょうがないだろう”と思って、何回か行きました。当時は日本人なんてほとんどいませんから、奇異の目で見られることはありましたが、攻撃はされなかった。そういうところに、あの時代の豊かさがあったなと思います。まだ分断はなかった。
観客と製作側の距離も近かったんです。『タクシードライバー』(マーティン・スコセッシ監督、76年)の公開初日は忘れられません。ロサンゼルスのウエストウッドビレッジに住んでいたんですが、ここは一流のロードショー館が10軒以上あるところで、プラザという老舗の劇場でやっていました。行ってみるとスコセッシが、観客の様子を窺いながら、ロビーをうろうろしてるんですよ。

芝山 いい時代ですね。作り手と観客の間の垣根が低い。貧富の差よりも、「面白いことと面白くないことの差」を重視する人が多かった。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
今だけ年額プラン50%OFF!
月額プラン
初回登録は初月300円・1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
オススメ! 期間限定
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
450円/月
定価10,800円のところ、
7/31㊌10時まで初年度5,400円
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
電子版+雑誌プラン
18,000円一括払い・1年更新
1,500円/月
※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事が読み放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年7,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 塩野七生・藤原正彦…「名物連載」も一気に読める
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2025年7月号