俳優の森繁久彌(もりしげひさや)(1913―2009)は映画、舞台、歌に作詞作曲、文筆まで多彩な業績を残し、文化勲章や国民栄誉賞を受賞した。そんな父から教えられた「哲学」を、次男の建(たつる)氏が語る。
友達の小遣いが1000円だった頃、僕は500円でした。
「父親の仕事が派手だから、あなたが使う1000円は2000円に見えるから」
と、お袋が言うのです。耳にタコができるほど言われたのは、
「あなたは森繁久彌の息子ではありません。あなたの父親が、たまたま森繁久彌だったのです。黙っていても周りがよくしてくれるのは、あなたに対してではないのよ」
それは、勘違いしてはいけないという戒めであり、僕の人生は僕が主役だと自覚させるためでした。子育てにおいて親父は戦略を練り、母は戦術を担当していたようです。

忙しくてほとんど家にいない親父だったのに、記憶は鮮明です。一緒に過ごす時間が濃密で余韻を引くので、印象として切れ目がないんです。
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source : 文藝春秋 2018年1月号

