大衆文化の「品格」

高田 文夫 放送作家
ライフ 芸能 ライフスタイル

黒澤 明(1910年〜1998年)
古今亭志ん朝(1938年〜2001年)
森繁久彌(1913年〜2009年)
高倉 健(1931年〜2014年)
青島幸男(1932年〜2006年)
沢田研二(1948年〜)

 今回は「代表的日本人」だって? 大きく出たね「文藝春秋」。さすが菊池寛だよ。そっちがそう来るなら、ここは内村鑑三に倣うしかないよね(笑)。私としては、ライブ感覚、アップデートされたチョイスでやってみようと考えた。

小津より断然、黒澤明

 まず、筆頭は黒澤明監督だな。大衆文化を考えると、映画というジャンルは絶対に外せないよね。相撲でいう柏戸や大鵬、野球なら王貞治、長嶋茂雄を外せないのと同じ意味合いがある。とくに敗戦後、テレビもない中で映像分野を引っ張っていたのは映画だよ。一部の映画通には小津安二郎という声もあるだろうけど、私は断然、黒澤です。

 黒澤は「野良犬」(1949年)や「七人の侍」(54年)を戦後すぐに撮っちゃってるわけだ。前者はクリント・イーストウッドの「ダーティハリー」に影響を与え、後者は「荒野の七人」というハリウッドリメイクを生んだ。黒澤映画は、観客数も桁違いじゃない? 小津よりも影響力がハンパない。あの構図や動きのダイナミズム、世界的映画の教科書を作り出した人ですよ。

 子供時代、文化的な恩恵は映画館が与えてくれたの。渋谷にあった東急文化会館の地下(現在の渋谷ヒカリエ)でやってた10円映画を浴びるように観たね。元NHKアナウンサーの竹脇昌作、俳優の竹脇無我のお父さんね、これが「今週のパラマウント・ニュース」なんて、鼻にかかった名調子で読むニュース映画。ダーッと、各社のも含めて1時間くらい流れて、次に洋画の予告編が一気に上映される仕組みなんだよ。それ観せとけば子供も喜ぶし、半日つぶれるから、親は積極的に小遣い渡して「行っといで!」って送り出してくれた。焼け跡から立ち上がっていく大人だけじゃなく、貧乏な私らの心を豊かにしてくれたのは映画なんだ。その時期、ジョン・フォードたちに対抗できる日本の映画人として、黒澤明がいたわけよ。

高田文夫氏 ©文藝春秋

 黒澤映画だと、インテリ層の評価が高い「羅生門」(50年)がベネチアで賞も獲ったけど、私的にはやっぱり「用心棒」(61年)と「椿三十郎」(62年)に尽きると思う。この2本で娯楽の王道、いやクロサワ流の帝王学を学んだ気がするんだよね。素浪人の三船敏郎が強いのなんの。腕を斬られるジェリー藤尾のシーンの強烈さ。「斬られりゃ痛えぞ」って、絡んだ浪人に言われて、バサッとやられる。瞬間、「イテーッ!」って叫ぶ。あんなバタくさいヤクザ、江戸時代の関八州にいるわけないけど(笑)。その場面は、ジェリー藤尾のリアクションを追う専用のカメラで撮ってたんだって。

 2作ともに三船さんのライバルで出てる仲代達矢もニヒルでカッコいい。「用心棒」じゃ、バンダナ巻いてピストルですよ。どうしちゃったんだよってくらいセンスが突き抜けてる。「ズバッ」て、刀で斬る音を初めて映画に導入した時代劇(テレビでは五社英雄「三匹の侍」)で、ホント映画館でショック受けたよ。「椿三十郎」のラスト、今度は凄腕剣士役の仲代さんが斬られて血飛沫がブワッと出る。あれは技術ミスが功を奏したって逸話もあるけど、新しくて面白い試みをやってるんだよね。

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source : 文藝春秋 2023年8月号

genre : ライフ 芸能 ライフスタイル