「神様の実像」

第6回

エンタメ スポーツ

■No time for doubt ―大谷翔平と2016年のファイターズ―〈完結〉

第1回 「ホームラン、打ってきます」

第2回 「彼が求めるもの」
第3回 「それぞれの戦場で」
第4回 「今と未来と」
第5回 「決着の時」
第6回 「神様の実像」 今回
第7回 「そのとき、中田翔は」
第8回 「消えない落書き」

 打球はセンターに向かって伸びていた。9回裏ツーアウトから福岡ソフトバンクホークスの江川智晃が放った打球は角度も速度も、前進した外野の頭を越えるには十分だった。三塁ランナーはすでに同点のホームを踏み、逆転サヨナラを決める二塁ランナーも本塁へ疾走していた。福岡ドームのスタンドを埋めた人々が勝利を確信したように立ち上がる。

 “打球は浅いセンターのはるか頭上だ。はるか頭上だ”

 実況席でアナウンサーが叫んでいた。北海道日本ハムファイターズに絶望感をもたらす白球は大きな弧を描き、中堅手の頭の上を越えていく。打たれた谷元圭介は遠ざかっていくボールを呆然と振り返り、捕手の大野奨太はその場に座り込んで打球を見上げるしかなかった。

 この直前に栗山英樹がセンターのポジションを少し下げるよう指示を出していたことは、観衆はもちろんのこと、ホークス側のベンチも、グラウンドに立っている選手たちも知らなかった。栗山以外に認識していたのはファイターズのコーチ陣と、そしてセンターを守っている陽岱鋼(ようだいかん)しかいなかった。

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source : 文藝春秋 2025年8月号

genre : エンタメ スポーツ