『ゴルフ侍』が生まれた日

第6回  内矢浩・ゴルフ番組プロデューサー

内矢 浩 ゴルフ番組プロデューサー
エンタメ スポーツ

北野武もファンに。渋すぎるゴルフ番組はなぜヒットしているのか

 BSテレ東で『ゴルフ侍、見参!』が始まったのは、2012年でした。振り返れば、もう13年も前なんですね。あのときは放送回数600回を超える長寿番組になるとは思いもしませんでした。

 全国各地にいる強者のアマチュアゴルファー、通称“ゴルフ侍”が、自分のホームコースでシニアプロを迎え撃つ、ハンデ無しのマッチプレー対決、というスタイルは変わっていません。司会もいなければ実況や解説もない。鳥の鳴き声が聞こえる静かな緑の中で2人の男が時々話をしながら淡々とプレーするだけ。当初は関係者から「そんな地味なつくりで大丈夫?」と心配する声もありました。

 きっかけは鹿児島のとあるゴルフ練習場でした。老練な常連さんが何人もいて、お互いにアプローチやパッティングの技を繰り出している。芝目や傾斜を知り尽くしているから、その場所ならプロにも負けない。まるで道場で腕を磨く剣士たちのようでした。そのときピンと来るものがあったんです。これは番組になると。

内矢浩さん

 今のところ、侍の92勝458敗70分(6月22日時点)。7回に1回くらい侍が勝つ。その下剋上が真骨頂なのですが、面白いのは勝ち負けだけではありません。私もつい見入ってしまうのが、冒頭に流れる侍たちの紹介VTRです。

 人生も半ばを過ぎた男たちには、やはり味わい深い物語があります。片手ハンデの猛者ばかりですが、決して“ゴルフエリート”というわけじゃない。会社経営者からサラリーマン、医師、消防士、農家まで、それぞれに社会人としての顔があり、ゴルフとの向き合い方も人それぞれ。独学で登り詰めた人も多い。フォームも十人十色です。不思議とその個性がプレースタイルにも滲み出るのです。

「面白いのは、なんだこのスイング? っていう人でも飛ばすじゃない。あれ? この人まっすぐ行くな、とか」

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source : 文藝春秋 2025年8月号

genre : エンタメ スポーツ