★「石破退陣」誤報の落とし前

　読売新聞による7月23日の石破茂首相の退陣報道は、政治報道史に残る誤報だった。「月内にも退陣を表明する方向」と書いたことで、早ければ月内の表明と「保険」をかけはしたが、号外まで発行しては「保険」は無効だ。号外が街中で配られれば、その最中もしくは数時間後には退陣を表明するのが常識だろうが、石破首相は在任を続けた。

　誤報を誤報と認めないため、その後の読売の政治報道は全てが言い訳もしくは自社の思惑通りに事を進めたいキャンペーンにしか見えない。最たるは7月24日の三面だ。「退陣『まだ言えぬ』　首相意向　『死に体』懸念・政治日程見極め」と題した記事には石破氏が「関税交渉は国益がかかっている。俺は赤沢（経済再生相）に懸けている。参院選の責任の取り方は交渉のメドがつけば説明するが、まだ対外的に『辞める』とは言えない」と周囲に語った言葉を紹介した。旧知の政治記者によれば、こうした記事で「周囲」とは記者にオフレコで語った言葉だそうだ。露骨に書くと「オフレコ破り」になるので、「周囲に漏らした」などとぼやかすという。要は読売は「首相は辞める意向は固めたが、『まだ言えない』と言っているだけで、うちは間違っていない」と言い訳したかっただけだ。

　読売が辞任表明の時期として「月内にも」と書いた7月末が過ぎ、誤報が正式に確定した後の8月の記事は、さらにうさん臭く見える。9日には三面で、自民の両院議員総会で総裁選の前倒しに向けた決定がなされた結末について「シナリオ通りの進行だったことをうかがわせた。党三役経験者は『首相には寝耳に水だっただろう。総会開始前に外堀は埋まっていた』と解説した」と書いた。これまた旧知の記者に聴いたところ、総裁選前倒しのシナリオは石破氏には極秘に伝えられており、石破氏はわざと驚いた表情をしたという。真偽のほどは不明だが、読売は自社の誤報を糊塗する目的で反石破派の情報のみで、都合のいいストーリーをつむいだようにしか思えない。同じ両院議員総会の様子を伝える同日の朝日は「（総会は）盛り上がりに欠けたとの声もある」として、石破降ろしを進める側に裏金議員が多く、「党勢低迷の責任を首相になすりつけることへの忌避感」が党内にあると報じており、両紙の見え方が違いすぎる。

　読売は8月20日の政治面でも総裁選挙管理委員会の初会合について「退陣表明へ圧力強まる　自民選管 始動」と報じたが、朝日は「自民選管委員長 無記名に異論　『石破おろし』にハードル」。誤報の経緯を踏まえると読売は、自社の期待感を紙面で表明していると捉えられても仕方ない。

　誤報なら誤報と潔く認めて、再出発せよ。このままでは「唯一の全国紙」として胸を張る読売は既存メディア全体の信頼を貶めるだけだ。

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