頭痛は、ポピュラーな病気であるにもかかわらず、自分の頭痛の原因が何なのか、どうすれば予防できるのか、しっかり理解できている人はほとんどいない(取材・構成=大場真代)
ガマンは美徳?
日本人、特に女性の多くが悩んでいるという頭痛。日本には正確な統計はないが、片頭痛では約840万人、緊張型頭痛は約3,000万人と、実に日本人の5人に1人は頭痛持ちだと推定されている。
このように慢性的な頭痛に悩んでいる人は多いにも関わらず「病気」だと認識されていないことも多い。医療現場でも、慢性的な頭痛は「特に命に別状がない」などと軽視される傾向にあり、痛み止めが処方されて終わり、ということも少なくない。そのため、適切な治療を受けられないまま、やむなく放置してきた人も多いのではないだろうか。
東京女子医科大学病院脳神経センター頭痛外来客員教授の清水俊彦医師は「頭痛は、ポピュラーな病気であるにもかかわらず、自分の頭痛の原因が何なのか、どうすれば予防できるのか、しっかり理解できている人はほとんどいない」と話す。
「日本人は『ガマンを美徳』としているからか、慢性頭痛を訴えて医師に診てもらう受診率は、欧米に比べてはるかに低いことが報告されています」
いわゆる「慢性頭痛」は緊張型頭痛、片頭痛、群発頭痛の3つに分類でき、性別によってもなりやすい頭痛のタイプは異なるという。
「女性の慢性頭痛のほとんどは、緊張型頭痛か片頭痛のいずれか、もしくは両者の併発であることが多く、群発頭痛は10:1の比率で男性に多い頭痛です。
緊張型頭痛は、ストレスなどで肩や首、側頭部の筋肉が緊張した結果、血流が悪くなり、筋肉の中に、乳酸やピルビン酸などの老廃物が溜まって神経を刺激。頭を締め付けられるような鈍い痛みが生じます」
緊張型頭痛は、午後から夕方にかけて痛みが増す傾向にあり、肩や首のひどいコリと頭痛がセットで起こる。眼精疲労やめまい、全身のだるさを伴うこともあり、体を動かしても、痛みが悪化しない。吐き気などもなく、ストレッチすると痛みが楽になるようなら緊張型頭痛の可能性が高いという。
「一方、片頭痛は痛みの発作中に体を動かすと、痛みが増します。ズキンズキンと脈打つような強い痛みが特徴で、光や音、におい、気温の変化に敏感になり、吐き気を伴うことがあります。頭の片側だけでなく、頭全体、時に痛みの部位がその都度変わることもあります。痛みの発作は、多い人だと1週間に1〜2回ほど起こることがあり、頭痛が起こると長くて2、3日は痛みが続きます。歩く、しゃがむ、階段の上り下りなど、日常生活の動作で悪化するのも特徴のひとつです。また、閃輝暗点という、ギザギザとした光や閃光が見える視覚前兆があらわれることもあります。
片頭痛は、ストレスや疲労、月経などで脳内のセロトニンの分泌が増減することで脳の血管が急激に拡張。血管周囲のセンサーである三叉神経が刺激され、痛みが起こります」
また男性に多い群発頭痛は、じっとしていられないほどの激しい痛みが一定期間毎日起こるのだという。「季節の変わり目の就寝後や明け方に激しい頭痛に襲われます。片側の眼の奥が激しく痛むのが特徴で『燃えるような』『えぐられるような』などと表現されることもあります。これは、片側の目の奥にある脳に血液を運ぶ内頸動脈やその周囲にある海綿静脈洞という静脈叢(そう)の異常な拡張が痛みの原因となっているため、痛みのほかにも、眼球結膜の充血や涙、鼻水が出ることもあります」
痛みがないのはむしろ危険
こうした慢性頭痛に悩む人は「歳をとると治る」「加齢とともに痛みは弱まる」という話を一度は聞いたことがあるかもしれない。
「たしかに、慢性頭痛の痛み自体は、年齢とともに起こりにくくなっていきます。それは、加齢に伴って動脈硬化が起こるため。脳の血管が硬くなることで、異常に拡張しづらくなるため、三叉神経など痛みのセンサーへの刺激が少なくなり、結果、痛みが少なくなるのです。しかし、痛みがなくなったからといって頭痛が治ったわけではありません。むしろ、脳の各部位が正常に機能しなくなり、さまざまな障害が起きている可能性があるのです」
「頭痛なんて私にはもう関係ない」と思っている人も、現在、不眠や不安、耳鳴り、めまいなどに悩んでいないだろうか。イライラが止まらなかったり、うつ病やパニック障害と診断されている人も、慢性頭痛を放置した結果、頭痛が姿を変えてあらわれている可能性があるのだ。
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source : 文藝春秋 2019年12月号