硫黄島で豊かに暮らしていた住民たちの過酷な戦後
今年8月、静養のため栃木県の那須御用邸に入った天皇皇后両陛下が地元に住む90代の女性2人を招いて懇談したことが報じられた。2人が太平洋戦争の激戦地、硫黄島の元島民だと知って「あの人たちだ!」と思った。渡部敦子さんと原ヤイ子さん。『死なないと、帰れない島』で、貴重な証言をしていた2人である。
この本の著者は20年近くにわたって硫黄島の取材を続ける新聞記者の酒井聡平。硫黄島の地下に今も眠る遺骨の謎を追いかけた『硫黄島上陸』に続くノンフィクションだ。
そもそもなぜ、硫黄島で生まれ育った2人が那須に住んでいるのか。
そして、両陛下が硫黄島の元島民に会った理由は何なのか。
サイパンが陥落した1944年7月、島民に疎開命令が下された。1164人いた島民は、軍属として軍に組み入れられた103人を除いて島を出る。慣れない内地で厳しい暮しを強いられたが、その中に那須高原に入植した人たちがいた。
いつかは島に戻れると信じ、荒れ地に鍬をふるった人々。だが戦争が終わり、米軍による占領期間が過ぎたあとも帰島を許されなかった。第二次大戦中に全島疎開となった島で、現在も疎開命令が解除されていないのは世界中で硫黄島だけとされる。
今年4月、慰霊のために硫黄島を訪問した両陛下は、戦闘に斃れた兵士やその遺族だけではなく、かつての島民たちもまた筆舌に尽くしがたい辛酸をなめたことを知り、少女のころに島を離れた2人を招いて、ねぎらいの言葉をかけたのだった。
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