世界が「Kampo」の実力とエビデンスに驚いた
漢方とは何か。まずは意外に知られていない事実から始めたい。
漢方の起源は古代中国に遡る。しかし、その中国に「漢方」という言葉は存在しない。漢方は1800年前に書かれた中国の医書『傷寒論』『金匱(きんき)要略』などを手本として、江戸時代に「漢方薬」「鍼灸」「養生」などを柱とする体系の形成を見た日本独特の「伝統医学」である。
では、中国で言う「中医学」と日本の「漢方」はどこが違うのか。
江戸時代、オランダからもたらされた「蘭方(西洋医学)」の相対語として誕生した漢方は、本家の中医学が複雑な理論に拘泥して次第に実践と乖離していったのに対し、「こうすれば病は治る」という、原点に立ち返ったシンプルな思想と、それを体現した実用性に最大の特徴があった。同時に、当時の漢方は、その独自性や斬新性において、世界を凌駕する水準にもあった。
例えば、漢方の第一人者として知られた吉益南涯に学んだ華岡青洲は漢方に蘭方を取り入れ、チョウセンアサガオにトリカブトを配合した通仙散という漢方薬を使って、全身麻酔による乳がん手術を成し遂げている。アメリカのウイリアム・モートンがエーテルを使った全身麻酔手術に成功した1846年に先立つこと実に42年も前の話である。
ところが、「脱亜入欧」を掲げた明治政府によって、江戸期に華開いた漢方は衰退への道を辿っていく。現在、中国には「中医(東洋医学)」と「西医(西洋医学)」の2つの医師免許が存在するが、日本では明治維新から15年後の1883年に布告された「医術開業試験規則及医師免許規則」で、試験科目が西洋7科(物理、化学、解剖、生理、内外科、病理、薬物学)に限定されて以降、漢方のみを専門とする医師は医学界から駆逐されていった。
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source : 文藝春秋 2017年09月号