ボクシングWBA世界フライ級の5度目のタイトル防衛を成し遂げ、絶頂期にあった大場政夫(おおばまさお)(1949-1973)が急逝した。首都高速道路での激突死という悲報に、日本中が驚きを禁じえなかった。その死を無念の思いで見つめていたのが、当時、ライバル関係にあった花形進(はながたすすむ)氏(1947-)だ。
事故のことは、その日の昼頃、自宅でテレビを見ていて知りました。大場君の運転する車が対向車線にまで飛び出して大破した、と。信じられなかったし、信じたくもなかった。いったい何があったのか。なぜあの運動神経抜群の大場君が、という思いが頭から離れませんでした。
彼が乗っていた車は、当時まだ日本には数台しかなかったコルベット・スティングレー。買ったばかりで運転に慣れていなかったのでしょうか。

大場君は私にとって生涯唯一のライバルだったといっても過言ではありません。しかしながら、彼との対戦は僅か2試合で終わってしまいました……。
初対戦は、1968(昭和43)年9月、後楽園ホールでの試合でした。試合は一進一退で、3ラウンドに私がいい右ストレートを決めた。しかしそこから彼の本領が発揮される。4ラウンドのゴングが鳴ると同時に、ものすごい勢いで反撃してきました。やられたらやり返す。それがボクサーにとって一番必要とされるものです。いいパンチを食らったら、すぐさまそれを倍にして返すという気の強さ、むき出しの闘争心。ボクシングで最も大事な気性の激しさを彼が十二分に備えていたのは間違いありません。
結局、その試合は1、2ポイントの判定差で私が勝つことができた。しかし、これが終わりではない、必ず大場君とはタイトル戦であいまみえることになるだろうと、その時に思ったものです。
その後、私も大場君も連勝街道を歩みます。私は日本タイトルを取り、ノンタイトル戦ながらアメリカで世界チャンピオンも倒した。一方、大場君は私より一足先に世界タイトルを手中に収めます。
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source : 文藝春秋 2006年2月号

