「詰んでますね……」
ここ数年、別の雑誌で将棋の取材をすることが多かった僕にとって、耳慣れたフレーズですが、福島県の稲作農家の取材現場で聞くとは思いもしませんでした。
発言の主は、ノンフィクション作家の奥野修司さんです。「文藝春秋」11月号の「コメ失政 右往左往する自民党」で訪れた無人駅のホームで、ふと「この国の農政、詰んでますね……」と呟きました。

「令和の米騒動」で、主食であるコメの危機を察知すらできなかった農水省ですが、彼らが日本の農業の未来をどのように描こうとしているのか。今回の記事はそのような疑問からスタートしました。
僕は当初、農水省の劣化が問題点なのだろう、と、ぼんやり考えていました。しかし、官僚、専門家、農家と取材を進めていくうち、その考えを多少、改めざるを得ませんでした。もっと正直な気持ちを言うと、農水省に同情する気持ちも芽生えたのです。
なぜかというと、政府が経済政策を最重要視してきたことで、経済効率の悪い農業分野は二の次、三の次の産業として、人員も、予算も減らされ続けてきたからです。農家と農地は減り続け、現状を維持することすらままならず、端的に言えば“オワコン”扱いで、農政のグランドデザインを描く余力すら奪われてきました。
たとえば農水省の統計職員は2004年時点から、8割以上も減っています。これがコメの不作を察知できなかった一因です。この数字を知った時は、目を疑いました。しかし実は、農水省の元幹部によれば、統計職員だけでなく、農水省全体として、職員は減らされ続けているそうです。彼は苦笑いを浮かべつつ、自虐的にこう話しました。
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