大坂なおみ、渋野日向子が「魔女」になる!?

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文藝春秋による、最新最速金メダル予想。本命、大穴、サプライズ……。日本は目標の30個を獲得できるのか。そして、メインポールに日の丸を揚げるのは誰だ⁉

金メダル獲得数を更新できるか?

 来年はいよいよ東京五輪イヤーとなる。日本オリンピック委員会が掲げる金メダルの目標数は、16個を獲得した1964年東京五輪の約2倍に相当する30個だ。日本が最も多くメダルを獲得したのは前回の2016年リオデジャネイロ五輪の41個(金12、銀8、銅21)で、金メダルの最多は1964年東京五輪と2004年アテネ五輪の16個だった。今夏、日本勢は歴史を塗り替えることができるだろうか。

 33競技・339種目の中で最も金メダルに近いと言われているのが、2020年東京五輪の新種目のひとつである空手男子形の喜友名(きゆな)諒(劉衛流龍鳳会)だ。形は、仮想の敵に対する技で構成された演武を行ない、その出来映えを競う採点競技。「目の前に本物の敵がいるような迫真の演武」と評される喜友名は、2年に1度開催される世界選手権を3連覇中で、2018年2月以降は無敗を誇っている。

 沖縄で発祥した空手は今や世界192カ国に1億人の愛好家がいるとされる。強豪は世界中にいるが、日本は発祥国のプライドを見せてくれるはず。女子形の清水希容(きよう)(ミキハウス)、男子組手75キロ級の西村拳(チャンプ)、女子組手68キロ超級の植草歩(JAL)も頂点を狙う十分な実力がある。

女子バドミントンは金銀独占!?

 金メダル獲得どころか、複数種目で金銀独占もありえるのが、近年目覚ましい活躍を見せているバドミントンだ。中でも断トツの強さを誇るのが、男子シングルスのエース桃田賢斗(NTT東日本)である。武器は「ヘアピン」と呼ばれるテクニカルショット。ネットをかすめてポトリと落ちる球で相手を前後に揺さぶり、攻撃を組み立てる。飛ぶ鳥を落とす勢いで世界ランク2位まで上がっていた2016年4月、違法カジノに出入りしていたことが発覚して、リオ五輪は不出場だった。1年後に競技に復帰し、現在は2018年9月から世界ランキング1位の座を1年以上キープしている。世界選手権も2連覇中と死角はない。

 女子シングルスでは2枚看板による金銀独占もありそうだ。リオ五輪銅メダリストの奥原希望(のぞみ)(太陽ホールディングス)は粘りのプレーを身上とする守備型の選手。一方の山口茜(再春館製薬所)は意外性も持ち合わせた攻撃的なプレーを持ち味とする。2人とも世界ランク1位を経験しており、奥原は2017年世界選手権金メダルも獲得している。

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奥原選手

 女子ダブルスは2017年以降、世界ランクの1位から3位までを日本勢が独占する状況が長く続いた。バドミントンの国別出場枠は各種目最大で2つとなっているため、日本人同士の代表争いが空前の激しさになっており、リオ五輪でバドミントン界に初の金メダルをもたらした“タカマツ”こと髙橋礼華・松友美佐紀ペアでさえ五輪出場に黄色信号が灯っている。現状では2018、19年世界選手権を連覇している“ナガマツ”こと永原和可那・松本麻佑ペア(北都銀行)の長身コンビと、粘り強さではピカイチの“フクヒロ”こと福島由紀・廣田彩花ペア(アメリカンベイプ岐阜)が代表有力。金銀独占は現実的な目標だ。

 花形競技に目を移すと、まず競泳では、2019年世界選手権で男子200メートルおよび400メートル個人メドレーで2冠に輝いた瀬戸大也(ANA)の充実ぶりが光る。リオ五輪の400メートル個人メドレーでは、金メダルを獲得した萩野公介の後塵を拝して銅メダルに甘んじたが、その悔しさがバネになった。それまでのトレーニングを一から検証したところ、筋トレをやり過ぎていたことが発覚。適度な負荷で疲労を残さないようにしてタイムを伸ばしている。東京五輪で2冠となれば、男子平泳ぎの北島康介以来だ。

 陸上では2019年世界選手権で20キロと50キロの2種目を制した男子競歩陣の充実ぶりが目を引く。度の強そうなメガネをかけて歩く姿が個性的な20キロの山西利和(愛知製鋼)は、京都大学工学部で物理工学を学んだインテリ選手。京都市立堀川高校時代の2013年に世界ユース選手権の競歩1万メートルで金メダルを獲得するなど、絵に描いたような文武両道アスリートだ。ちなみに女子マラソンで代表に内定している鈴木亜由子(日本郵政グループ)は名古屋大学経済学部出身。旧帝大出身者が2人とはなかなかのトピックだろう。

 50キロには“世界一速く、美しく歩く男”と称される鈴木雄介(富士通)がいる。故障でリオ五輪出場を逃したがそこから這い上がってきた苦労人でもあり、山西とダブルで頂点を狙っている。

「お家芸」の現在地

 1964年東京五輪で金メダルを量産したお家芸競技の御三家、柔道、レスリング、体操には共通点がある。多少の浮き沈みはあるが、その後、半世紀にわたってほぼコンスタントに成績を残してきたことだ。

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大野選手

 競技の世界的な普及で苦境に面したこともあった柔道は、リオ五輪で男子が全階級メダル獲得という快挙を成し遂げた。今回、最強の呼び声をほしいままにしているのは男子73キロ級の大野将平(旭化成)だ。初出場だったリオ五輪で男子に2大会ぶりの金メダルをもたらし、その後、1年半の休養を挟んで復帰。2019年世界選手権をオール1本勝ちで制して3度目の優勝を飾った。抜群に強い背筋を生かした大外刈りには、見る者を大いに惹きつける豪快さがあり、ただ勝つだけでなく、圧勝で連覇する姿まで目に浮かぶ。

 また、60キロ級の高藤直寿(パーク24)は世界選手権を3度制するなど、実力ではトップと目される。早いラウンドで不覚を取ることがなければ金メダルに最も近い。

 女子は52キロ級で世界選手権2連覇中の阿部詩(うた)(日本体育大)と、男女を通じて柔道の東京五輪内定第1号になった78キロ超級の素根輝(あきら)(環太平洋大)が強い。2019年世界選手権女王の素根は、前年覇者である朝比奈沙羅との激しい争いを制しての東京五輪切符獲得だった。ともに2000年生まれの阿部とは親友同士。20歳で迎える大舞台での金メダル獲得を見据える。

 なお、柔道には今回から採用されている男女混合団体がある。各階級とも穴のない日本は金メダルの最右翼とされている。

 1964年大会で体操と並ぶ競技別最多5個の金メダルを獲得したのがレスリングだ。特筆すべきは1952年ヘルシンキ五輪から2016年リオ五輪までの間、不参加だった1980年モスクワ五輪を除く16大会連続で男子がメダルを獲得していること。これは1964年東京五輪から採用された柔道を上回る実績である。今回は2017年、19年世界選手権を制しているグレコローマン60キロ級の文田健一郎(ミキハウス)や2018年世界選手権フリースタイル65キロ級金メダルの乙黒拓斗(山梨学院大)に期待が懸かる。

女子レスリングはメダル量産?

 2004年アテネ五輪以降に正式種目に採用された女子は日本の金城湯池である。4大会で手にした金メダルは実に11個に上る。そして今、最も頂点に近いのは、57キロ級の川井梨紗子(ジャパンビバレッジ)だ。リオ五輪の際は、五輪4連覇を達成することになる伊調馨との争いを避けて、階級を63キロ級に上げて金メダルを獲ったが、東京五輪では本来の自分の体重に近い57キロ級にした。2019年世界選手権の代表を懸けた伊調との国内選考試合を制したテクニックと気迫は素晴らしく、階級を下げても強さが揺らぐことはなかった。

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川井選手

 梨紗子の妹である62キロ級の川井友香子(至学館大)も急成長中。姉妹で金を獲れば夏季五輪では全競技を通じて日本初の快挙となる。

 一方、過去の五輪でのメダル獲得数が全競技を通じて最も多い体操はやや苦戦しているが、白井健三に続く史上2人目の高校生代表として2019年世界選手権に出場した橋本大輝(市立船橋高)の成長に期待が膨らむ。また、五輪で通算3つの金メダルを持つ内村航平(リンガーハット)の演技の難度や質は、鉄棒などの得意種目に絞れば十分に金メダルを狙えるレベルにある。内村の負傷が癒えて代表権を勝ち取れば、リオ五輪に続いて団体総合で優勝の可能性も見えてくるだろう。

 1964年東京五輪で表彰台に上がった女子は「東洋の魔女」と呼ばれて金メダルに輝いたバレーボールと体操(団体総合銅)だけだったが、今回はいろいろな競技でメダルが見込める。特にラケット競技は先述のバドミントンのほかにテニスと卓球でも女子が活躍しそうだ。

日本国籍を選んだ大坂なおみ

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大坂選手

 最大の注目は、男女を通じて日本人初の4大大会優勝(2018年全米オープン、2019年全豪オープン)と世界ランク1位の偉業を達成したテニス女子シングルスの大坂なおみ(日清食品)だ。日本人の母とハイチ人の父を持ち、日本と米国の2重国籍だった大坂は、22歳の誕生日だった10月16日を前に「日本国籍」を選択した。インタビューなどではことある毎に東京五輪での金メダル獲得へ向けて意欲的なコメントをしており、気合十分である。

 近年の人気上昇が目覚ましい卓球では、代表入りを確実にした女子シングルスの伊藤美誠(みま)(スターツ)に期待が寄せられる。ただし、この競技はなんといっても中国の強さが圧倒的だ。直近の3大会の成績を見ると、各種目の出場枠が最大3だった北京五輪では男女シングルスで金銀銅を独占。出場枠が2に減ったロンドン五輪以降も金銀を独占している。また、団体戦においては、3大会すべて金メダルとなっている。

 そのような状況で伊藤が注目されるのは、対中国勢の勝率が他の日本選手よりも高いから。11月19日の文春オンラインの記事によると、東京五輪の日本代表個人戦2枠を争う平野美宇が25%、石川佳純が23%の勝率であるのに対して、伊藤は44%だった。伊藤が得意とするのは、予備動作なしで繰り出す高速カウンターの“みまパンチ”。目にも止まらぬこのショットで中国勢に一泡吹かせて欲しい。

 団体球技に目を移すと、全体的には苦戦が予想される中で、北京五輪以来、3大会ぶりに復活した女子ソフトボールには12年越しの“連覇”の期待が懸かる。北京五輪で689球を投げ、悲願の頂点に立った大黒柱の上野由岐子(ビックカメラ)は、37歳となった今も健在。2018年世界選手権を制した米国との一騎打ちになるだろう。

 同じく12年ぶりに復活した野球も楽しみだ。11月の「WBSCプレミア12」で日本代表“侍ジャパン”が初優勝。東京五輪でも悲願の初優勝を目指している。

 サッカーも頂点を狙っている。女子は2011年ワールドカップを制した頃と比べると小粒になっている

 が、今は世代交代の時期。本番まで伸びしろは十分にある。男子には世界的ビッグクラブであるレアル・マドリードと契約し、スペイン・マジョルカにレンタル移籍中の怪童・久保建英がいる。

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source : 文藝春秋 2020年1月号

genre : エンタメ スポーツ