体外受精対談 男性不妊を知ってほしい

石田 純一 俳優
ダイアモンド✡ユカイ ロックシンガー・俳優
ライフ 芸能 医療
妻とともに治療を乗り越えるために男性ができることとな何なのだろう。55歳、47歳の時に体外受精で子供を授かった石田さんとユカイさんが一緒に考えてみたこととは。

男は体外受精にどう向き合うべきか

 石田 ユカイさんとはバラエティ番組で何度も共演していますけど、こうして面と向かってお話しするのは初めてですね。今日は体外受精について話してください、というオファーだったけど、ユカイさんの体験談は相当話題になっていましたね。

 ダイアモンド✡ユカイ(以下、ユカイ) エッ、そうですか。奥様の理子さんとも何度かお会いしたことがありますが、なかなか男同士で体外受精について話すことはないので、今日はちょっと緊張しています。

 精子を女性の体に注入する人工授精に対し、体外受精は体内から取り出した精子と卵子で受精を行い、受精卵を子宮に戻す。

 日本産科婦人科学会が行った最新の調査によれば、2017年に体外受精で生まれた子どもは約5万6千人で、過去最多を記録。これは同年に生まれた子どもの約16人に1人の割合に当たる。

 石田氏は55歳で理子さんと結婚すると、理汰郎君(7)と青葉ちゃん(3)、つむぎちゃん(1)の3人兄妹をもうけた。ユカイ氏も47歳のときに長女、新菜(ニーナ)ちゃん(9)が誕生。翌年には双子の弟、頼音(ライオン)君(8)と匠音(ショーン)君(8)が生まれた。彼らはみんな、体外受精で授かった子どもたちだ。
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石田氏

 石田 昔は「試験管ベビー」と呼ばれて、体外受精に否定的なイメージを持っている人もいましたけど、16人に1人とは、ずいぶん一般的になりましたね。不妊の定義は、1年間、自然に性交渉をしても子どもができないこと。いまの時代、そういう夫婦はたくさんいるでしょう。

 ユカイ 俺も昭和の人間ですから、結婚すればすぐに子どもができるものだと思い込んでいました。でも、いまは子どもを授かろうと思ったらWILL、つまり強い意志が必要です。奥さんはお腹を痛めるわけですからやっぱり強い意志を持っている。その一方で、旦那さんの理解が追いついていない夫婦も多い。俺は体外受精で辛い思いをする妻を見てきたので、やっぱり男がしっかりしないといけないと実感しましたね。

 石田 その通りですね。今日は、男性がどのように体外受精と向き合うべきか、ユカイさんと一緒に考えていきたいと思います。

まさか、できないとは

 ユカイ 体外受精はまだまだ成功率が低いですから、1回では妊娠できず、何度もトライしなければならないことも珍しくありません。新菜が生まれたのも3回目の体外受精でした。純一さんはどうでした?

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生まれたばかりの新菜ちゃん

 石田 理汰郎の場合は8回のタイミング法と、6回の人工授精、3回の体外受精を行いました。結婚当初はまさか子どもができないとは思っていなかったんですよ。僕は毎日ランニングをしていたし、妊活に効果的とされるリコピンを摂るために、トマトジュースも飲んで、健康にはすごく気を使っていました。そもそも、壱成とすみれという2人の子どもがいたわけですから。

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石田家の七五三

 ユカイ しかも理子さんはバリバリのアスリートですからね。

 石田 そうなんです。ところが、結婚して2年が過ぎても、「アレッ、できないじゃん」と。そこで、専門のクリニックを受診すると、「普通は1億個ある精子が3千万個しかない。あなたが原因よ」と、ガンガン責められたんです。老化による精子の減少や運動量の低下に加えて、円丸に静脈瘤があることも判明しました。それで、ガラス管を使って直接卵子に精子を入れる顕微授精に取り組むことにしたんです。

 ユカイ ウチも3人とも顕微授精です。俺は無精子症なんですよ。だから、顕微授精以外に選択肢がなかったんです。

 石田 無精子症と告げられたときはショックだったでしょう。

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ユカイ氏

 ユカイ あの時のことはいまでも忘れられませんよ。結婚したとき、妻は30代半ばでしたから、年齢を気にしていましてね。俺も結婚するならファミリーを、と思っていたから一緒にクリニックに行きました。「付き合ってあげるよ」みたいな感じでね。まずビックリしたのは、待合室が女性でいっぱいだったこと。

 石田 男がいないんだよね。

 ユカイ そうなんです。なんだか恥ずかしくなっちゃって、端のほうに隠れるように座って、自分たちの番を待っていたんです。

 妻が検査を受けると、「卵子の状態がとてもいい」と診断されたので一安心していました。ところが、お医者さんは、「旦那さんも検査を受けて欲しい」と。「おいおい、冗談だろ?」と思いましたよ。当時は、「ロックンローラーの俺がなんで? 検査ってなんなんだよ」と付け上がっていましたからね。

 ただ、俺も40代後半で、少し大人になっていたので、とりあえず検査を受けることにしました。ビックリしたのが精液を取るための採取室です。狭い個室の中に、いかがわしいビデオがずらりと並んでいる。異様な雰囲気で、「これを観ながらやれってことかよ……」と変テコな気持ちになりました。

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 石田 あ〜、わかる(笑)。

 ユカイ 純一さんも観ました?

 石田 僕はいろんなクリニックに行ったけど、どこにでも置いてありましたよ。面白いことに、それぞれ揃えが全然違いました(笑)。

「精子はゼロです」

 ユカイ とはいえ、やらないわけにはいきません。検査を終えて、妻と診察室に行くと、抑揚のない声で、「残念ながら精子はゼロです」と宣告されたんです。呆然として、しばらく言葉が出ませんでしたよ。そのときはまだ、「俺はロックンローラー。男っていうのは強いんだ」と思っていたから。それなのに男を否定されたような答えが返ってきて……。いま思えば、妻もショックだったでしょうね。

 石田 奥様はなんと?

 ユカイ 俺は、「子どもができないなら、別れた方がいいんじゃないか」と伝えたんですが、「ユカイさんは世話が焼ける人ですから。今後はユカイさんを子どもだと思ってやっていきます」って。

 石田 強い奥様ですね(笑)。ということは、その時点では妊娠を諦めたわけですか?

 ユカイ そうなんです。「精子ゼロ」と言われ、思考が停止してしまいましたから。ただ、よく調べてみると、無精子症の中でも、閉塞性無精子症だとわかったんです。これは精管が詰まっていて、精巣でつくられた精子が正しく外に出てこない状態。子どもの頃に鼠径ヘルニア、いわゆる脱腸になって、飛び出した腸の根元を糸で縛る手術を受けたことがあるんですが、その時に精管も一緒に縛ってしまったようです。

 石田 閉塞性無精子症の場合、精巣から精子を取り出せば、体外受精ができる可能性があるそうですね。

 ユカイ そうなんです。ただ、そのためには、円丸を切って針を刺す手術を受けなければいけないんです。手術まではもの凄い恐怖でしたよ。急所に野球のファウルチップが当たったときの、何倍の痛みなんだろう……って。しかも、円丸が腫れることもあるというので、インターネットで調べると、なんとサッカーボールくらいの大きさに腫れ上がった画像を見つけてしまったんです。

 石田 サッカーボール!?

 ユカイ インターネットなので情報が錯綜していたんでしょうけど、怖すぎますよね。結局、手術は成功して円丸は無事でしたが、思い出すのも恐ろしい……。

 しかし、前から不思議に思っているんですが、不妊治療や体外受精というと、女性だけに原因があると思われがちですよね。俺と同じく、男性に原因があって不妊に悩んでいる夫婦も多いと思うんですが。

 石田 実際、男性だけに原因があるケースは24%、男女両方に原因があるケースも24%とされています。つまり約半分は男性にも原因がある。にもかかわらず、ユカイさんが言うように、男性不妊が理解されているとは言いがたいですね。

不足する不妊教育

 ユカイ 男性不妊や体外受精が十分に理解されていない背景には、教育の不足もあるんじゃないでしょうか。俺は、「埼玉県こうのとり大使」として、高校で講演をしているんですが、ある先生が、「保健体育の教科書ではほとんど不妊について触れられていない」と嘆いていました。実際、高校生に向けて、「俺は無精子症だったんだ」と話しても、「俺には関係ねえよ」と聞く耳を持たない子も多いですから。

 石田 確かに、学生時代を思い返してみると、避妊のことは口酸っぱく言われたけど、不妊についてはほとんど教えられませんでした。

 ユカイ なにより大切なのは、若い頃に自分が不妊かどうかを知っておくことだと思うんです。いまはバリバリ仕事をする女性が増えましたから、大学を出て一生懸命働いていると、すぐに30歳。そこからパートナーを見つけて結婚すると、もう35歳です。もし男性が俺と同じ無精子症にもかかわらず、「いつかは子どもができるだろう」と思い込んで普通に夫婦生活を送っていたら、すぐに40歳手前になってしまう。

 石田 35歳を超えると不妊治療の成功率は30%と言われていますね。理子が僕と結婚したのは34歳のときだから、やっぱり真剣に考えていて、付き合い始めの頃に、「私はずっと子どもを作りたいと思ってきたから、遊びでは付き合えない。結婚できないなら別れてください」とハッキリ言っていました。

 そういう意味では、結婚前に2人でブライダルチェックをして、早い段階で現状を知ることはとても大切。東京であれば不妊検査には、上限5万円の助成金が出るので、まずは検査だけでも受けてほしいですね。

 ユカイ 変な話、いくら大変といっても男は精子を取ってしまえば、それでおしまいじゃないですか。俺の不妊治療だって普通の外科手術に毛が生えたようなもので、大したことはなかった。入院もしないし。でも、女性はここからが大変なんです。採取した精子を冷凍保存して、顕微授精をした上でお腹に戻さないといけません。男性のように、1日で終わるわけではなく、1カ月以上も治療が続きます。いろんな薬を飲んだり、ホルモン注射も打ちましたから、妻には大きな負担をかけました。

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source : 文藝春秋 2020年1月号

genre : ライフ 芸能 医療