「文学にうってつけ」を捜して

第19回

山田 詠美 作家

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エンタメ 社会 読書

 もうじき閉店してしまうという本屋さんの御主人の書いた本を読んだ。閉店理由は、〈お金が回らないから〉だそう。苦労した御両親の後を継いで、ここまでやって来たのに残念だろうなあ、と思っていた私は、中野まで行く予定があったので、少し足をのばして、その本屋さんに立ち寄ってみた。

 週刊誌を買っている夫の横に立っていた私は、応対している人が御主人だとすぐに解った。何故なら、本の中には彼の写真が何枚も載っていたから。オモテに出たい人なんだなあ、と思った。いや、決して悪い意味じゃなくて。店をアピールすることは大切だ。

 御本、読みましたよ、と話しかけてみた。すると、その御主人は、ひどく迷惑そうな顔で言ったのだった。

「あー、どーもー」

 私は、あれ? と感じた。接客業なのになあ、と。それでもさらに話しかけてみた。

「お店、閉っちゃうんですね」

 無言だった。早く出て行けと言わんばかり。きっと、ミーハーなババァが見物に来やがって、と思ったのだろう(いや、それはそれで、正しいのであるが)。

 でもさ、と私は腑に落ちない気分だった。作家である私の顔を知らないなんてのは、ざらにあることで、そこを問題視する気は、まったくない。むしろ、本屋さんによっては、たとえ顔を知っていても知らない振りをしてくれて、その気づかいがありがたかったりもする。

 私が、これってどうなの? と首を傾げたのは、自分が書いた本をお金を出して読んだ人間に対する作者としての彼の態度だ。

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source : 文藝春秋 2026年5月号

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