
■連載「古風堂々」
第79回 落ちる人、落ちない人
第80回 紫外線いまむかし
第81回 藤井君と引き分け
第82回 日本が日本であり続けるために
第83回 人間のクズ
第84回 今回はこちら
古代ギリシア・ローマのアリストテレスやキケロが重要視した雄弁術(修辞学)は、十二世紀頃にヨーロッパで大学が創設されて以来、二十世紀に至るまで欧米の大学で教養科目の柱の一つとされていた。そのせいか概して欧米人は、日本人に比べ聴く者を引きつけたり、説得力のある話をするのがうまい。とりわけアメリカのように風俗習慣、宗教、価値観などの異なる民族の寄せ集まりでは、我が国のような「以心伝心」とか「空気を読む」が通用しないから、雄弁は必要不可欠である。だから政治家ばかりか家庭の平凡な主婦でも、分数の足し算がままならぬ大学生でも、口を開いた途端に誰もが論客、というか口舌の徒となる。
雄弁には小気味よい断言が必須である。その点、トランプ米大統領は無知無教養無品格だが、雄弁術にたけている。「演説においては最初の一分間で聴衆の心をつかめ」も心得ていて、刺激的断言を多用する。「イランに残された道は無条件降伏か死のどちらかだ」「私は七つの戦争を終らせた。ノーベル平和賞に値する功績だ」など、内容のほとんどは嘘、大風呂敷、誤解、錯覚、誇張に満ちた暴言暴論なのだが、思わず話にひきこまれてしまう。また彼はアリストテレスが『弁論術』に記した、「聞き慣れない単語を使うな」を守っている。例えば、良い(good)、悪い(bad)、すばらしい(great)を頻繁に用いるが、どれも一音節だ。ある人が彼の使う単語の音節数を勘定したところ、四音節以上はたった七%にすぎなかったという。これは小学校四年生レベルらしい。
どこの国でも知的語彙の使用は知的レベルの高さを示唆するが、英語では知的語彙には多音節のものが多い。ケンブリッジ大学での同僚だったある数学者は、彼の通ったパブリック・スクール(名門私立中等学校)では、「得る」はできるだけgetでなくobtainを使うよう指導されたと言っていた。私もアメリカにいた頃は、ガールフレンドと夜景の美しい所へ行った時など、「What a nice evening」でなく、「What an enchanting(魅惑的な) evening」などと頑張っていたのだ。
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