中国につけこまれた今こそ「戦略的臥薪嘗胆」だ
戦略なき国家は、危機の前で立ち尽くす
本連載ではこれまで、戦略的思考の重要性、米国が「世界の警察官」から降りようとする時代の日本の課題、そして中国と欧米の戦略文化の違いについて論じてきた。最終回で問いたいのは、その議論を日本自身に引き寄せたとき、戦略なき国家はどうなるのか、という一点である。
戦略を欠いた国家は、平時にはその欠陥が表面化しにくい。目の前の課題をその都度処理し、摩擦を避け、当面の安定を保っている限り、大きな問題はないように見える。しかし国際環境が変化し、相手が長い時間軸で周到に手を打ってきたとき、その国家は危機を予見できず、選択肢も準備できず、結局は後手に回る。その不利は突然生まれるのではない。小さな先送りや沈黙、判断ミスが積み重なった結果として、気がつけば相手に有利な構図ができあがっている。
このことを、日本外交の現実の中で最もよく示しているのが尖閣問題である。尖閣諸島をめぐっては、しばしば日中間の主権問題として語られる。だが、本稿で論じたいのは、領有権をめぐる法的整理そのものではない。むしろ焦点は、なぜ日本は危機を早い段階で見通せず、なぜ有利な立場を戦略に転化できず、なぜ事態が悪化してからようやく危機として受け止めるに至ったのか、という点にある。
尖閣問題は、離島をめぐる争いである以上に、国家が戦略を欠いた対応を続けるとき、何が起きるのかを示す事例である。法的に正しいことと、政治的に守り抜けることは同じではない。正当性があることと、それを長期的な優位として固定化できることも別である。尖閣問題が映し出しているのは、まさにその現実である。
もっとも、これは日本がすでに取り返しのつかない状況にあることを意味しない。尖閣諸島をめぐっての日本の立場は、歴史的にも国際法的にも揺るがない。問題は、その優位を戦略として十分に活かしてこなかった点にある。だからこそ、その弱点を自覚し戦略を立て直すならば、局面を主導的に管理していける余地はなお大きい。
本稿では、尖閣問題を具体例として、戦略なき国家がどのような困難に直面するのかを考えてみたい。そこに見えてくるのは、単なる対中政策の難しさではなく、危機を予見し、時間を味方につけ、選択肢を整えるという国家の基本動作を、日本は取り戻せるのかという問いである。
尖閣問題――戦略の欠如が危機を招いた教科書的事例
(1)歴史的・国際法的立場
尖閣問題は日中間の主権問題であるとの理解自体が、事態の本質を見誤らせてきた。尖閣諸島の主権が、歴史的にも国際法的にも日本に属することは極めて明確であり、疑う余地はない。その経緯は、決して拙速でも、力による一方的な占有でもなかった。
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