霊長類研究から人間の根源を探求する「サル学」の世界的権威・河合雅雄(かわいまさを)氏の弟は、臨床心理学の第一人者で文化庁長官も務めた河合隼雄(はやお)(1928―2007)。ユニークな知性を認め合った2人のありし日。
私は男ばかり6人兄弟である。男ばかり6人だと、よく喧嘩したでしょう、と聞かれるが、不思議なことには、兄弟喧嘩の記憶は全くない。もちろん、内心では腹が立つことやちくしょうと思うこともあったが、抑制の範囲内で、仲よく楽しい関係は持続した。
子どもの時はもちろん、長じても盆正月以外にもよく故里へ帰った。両親が亡くなった後は長兄の仁(ひとし)が外科医院を開業して跡を継いだが、機会があれば集った。隼雄が文化庁長官になってもしばしば帰り、子ども時代に戻った気分になって談笑がつきなかった。涙が出るほど無邪気に笑いころげる長官など、想像しにくいのではないか。

なぜこんなに仲がよかったのかよくわからないが、一つの理由は、親が6人の子どもを全く分け隔てなく平等に育ててくれたことにあるようだ。父親はときに「どの子も同じようにかわいい」と言った。なぜわかりきったことを言うのかと、私は訝(いぶか)しく思ったが、それは父親が子どもの時味わされた苦い体験からえたものだった。
父は300年続いた田舎の素封家の次男だったが、長男偏重の世のしきたりから、小学校だけで世間に放り出された。一方、吉野の山奥の山林地主の家に7人きょうだいの末娘として生まれた母は、温い家族の絆の中で育った。そんな両親の人生観が、平等に子どもの個性を育て、バランスの調節に適切な舵をとってくれたのだと思う。
例えば、私だけが病弱で欠席がちの故もあって、成績は悪かった。しかし、私の通知簿だけは仏壇の引出しに隠し、「雅雄は学校へはあまり行けないけど、よくやってる」とかばってくれた。よくあるように兄弟と比較して「もう少しよい成績を」と激励されれば、きっとコンプレックスに悩んだだろう。
兄弟の中で、次男の公(ただし)と隼雄(ハアちゃん)の2人が異才だった。ハアちゃんは小学生の時は弱虫の泣き虫。運動神経は鈍い。そのくせこりくつにたけていて、変に強情な所がある。本が大好きで学校の勉強はさっぱりしないが、いつもトップの成績をとっている。そして、大人のずるさやごまかしを見抜いていて、皮肉っぽいことを言う。かわいげのない小憎らしい子どもだった。母親は「この子はこわい」ともらしたことを覚えている。
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source : 文藝春秋 2009年8月号

