岩石に眠るクラーケン

伊庭 靖弘 北海道大学大学院理学研究院准教授

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 40億年におよぶ生命進化と生物多様性の直接的な物的証拠は、化石として地層の中に閉じ込められている。しかし、近代科学の誕生以来、研究者が読み解いてきたのは、そのごくわずかな断片にすぎない。

 この不完全さは、生物の側の問題として語られてきた。柔らかい体は分解されやすく、骨や殻をもつ生物は化石として残りやすい。もちろん、それは正しい。しかし、もう一つ大きな問題がある。研究者側の問題である。化石を見つけ、取り出す技術には、長いあいだ本質的なイノベーションがなかった。

 化石探しの基本は、岩石を割ることだった。あるいは薬品で岩石を溶かすことだった。X線CTで内部を見ることもできるが、万能ではない。化石と岩石の性質が似ていれば輪郭は曖昧になり、微細な形や境界を十分に読み取れない。どの化石を発見できるかは、技術によって最初から制限されていた。これが、地球生命史を解読するうえでの最大の障壁である。

 この限界を越えるために、私たちはDigital Fossil Miningという方法を発明した。新たに開発した装置を使って、岩石を少しずつ削り、断面を高解像度のカラー画像として記録する。膨大な画像をAIで解析し、内部の化石を3次元のデジタル標本として取り出す。岩石に閉じ込められたあらゆる化石をありのまま、サイバー空間で掘り出す方法である。

 2025年、私たちはこの方法で白亜紀後期(約1億〜7000万年前)の岩石から多数のイカ類の微小な顎(くちばし)化石を取り出し、現代型イカ類の歴史が1億年前までさかのぼることを示した。この成果は米科学誌『サイエンス』に掲載された。

 一方で、もう一つの未解決問題があった。日本やカナダ・バンクーバー島の白亜紀層から知られていた、タコに近い大型頭足類の顎化石である。それらは非常に大きかったが、本当にタコなのか、どれほど大きかったのか、何を食べていたのかは、解明できていなかった。

 新たに得られた顎化石は、この問題を解く鍵になった。3次元のデジタル標本として形を調べ、表面に残された細かな傷や摩耗まで読むことができた。その結果、この巨大な頭足類が白亜紀のタコ類であり、硬い獲物を噛み砕く強力な捕食者だった可能性が見えてきた。今回の研究も、同じく『サイエンス』に掲載された。

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source : 文藝春秋 2026年7月号

genre : ニュース サイエンス 歴史