夏の風物詩、恐竜展

日本再生 第76回

立花 隆 ジャーナリスト
ライフ 歴史

 幕張メッセで開かれている『ギガ恐竜展2017』(読売新聞社・幕張メッセ主催)を見てきた。夏休みに入って早々ということもあって、会場は子連れの客で一杯だった。呼びものになっていたのは、世界最大級の恐竜「ルヤンゴサウルス」。全長38メートルもの巨大な復元骨格が会場のど真ん中にドーンと展示されていた。

「イヤーこれは大きい!」と一目見て思った。大きすぎて、全体を一つの視野におさめきれないほどだ。幕張メッセの巨大展示場をもってしても、全体をおさめるのに、相当の無理をしているように見えた(展示物は他に約200点あった)。「ワー、お母さん、見て、見て。こんなに大きい。このルヤンゴサウルス、世界一だって!」「お父さん、ティラノサウルスだよ。動いている。すごい!」と、会場のあっちでもこっちでも、子供たちの大きな声が鳴り響いていた。

「共喰い」というコーナーでは、強暴な肉食竜ティラノサウルスが草食竜を襲ってエサにしていただけでなく、ティラノサウルス同士が闘い合い、殺し合い、相手を食べてしまうという意味での共喰いをしていたと考えられることが相手の尾の食いちぎり化石などで示されていた。

 ティラノサウルスとルヤンゴサウルスが相まみえることがあったかなかったかは定かでないが、もしそういう機会があったとしたら、その習性からしてティラノサウルスはルヤンゴサウルスに噛みついただろう。だが喰いちぎっていたかどうか? 証拠が残っていないので何ともいえないが、大きさからして多分できなかったのではないか。

 私は少年時代からの恐竜ファンではないが、縁あって大昔から東京周辺で開催される恐竜展をほぼ見てきている。私は子供時代からの科学少年であった上、高校が上野高校で、毎日の通学路が科学博物館の外まわりをグルッとまわるコースだったから、その催し物のPR看板はいやでも毎日眺めなければならなかった。おまけに理科の科目選択で、人数調整のために好きでもない地学のクラスに入れられてしまった。おかげで恐竜にかかわる学問(地質、地史、古生物学など)はいやでも頭に自然と叩きこまれてしまった。毎日のコースだからいつの間にか科学博物館にしょっちゅう行くようになり、卒業して大学生、社会人になってからも、面白そうなものをやっているとだいたい見てきた。そういうわけで恐竜展は、科学博物館でもそれ以外でも、私の人生において夏の風物詩として、生活の一部となってきた。これを書くのに、事務所の資料庫を引っかきまわしたら、過去の恐竜展の図録のたぐいがゾロゾロ出てきた。

 先日私が訪ねたギガ恐竜展のルヤンゴサウルスの骨は、中国河南省の汝陽(ルーヤン)盆地の白亜紀の地層から掘り出されたもので、河南省地質博物館から借り出されてきたものだ。ルヤンゴサウルスの大きさについて、「世界最大の」ではなく「世界最大級の」と微妙な表現が使われているのは、その骨がアジア最大ではあるが、世界一ではないからだ。現在世界一の恐竜化石は、米国アトランタの自然史博物館にあるアルゼンチノサウルスのものだ。だがこれは部分骨格しか見つかっていない。全身骨格が見つかっている点に力点を置くと、こちらのルヤンゴサウルスのほうにより価値があるといえそうだ。

 この展示でもう一つ、私が見たいと思っていたのは、羽毛恐竜だった。しばらく前、恐竜の子孫としていま地球上で活発に生きているのは、鳥類という話を聞いて、はじめは耳を疑った。始祖鳥の延長のような巨大な鳥をはじめ想像したからだ。やがてそうではなくて、その辺を飛んでいるスズメやハトなどなんでもない鳥全部が恐竜の子孫という意味と知って、へーそうなのかと思った。骨格など、鳥の生理的仕組み全体がまさに鳥が恐竜の子孫であることを証明しているのだと知って、関連文献を読み漁るうちに次第に納得した。

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source : 文藝春秋 2017年09月号

genre : ライフ 歴史