ザ・フール

嶋津 輝 作家

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エンタメ 読書

 今年のはじめに『カフェーの帰り道』という小説で直木賞を頂いた。

嶋津輝氏 Ⓒ文藝春秋

 受賞後の日々を思い出そうとすると、記憶がところどころ抜け落ちていたり、全体的にモヤがかかっていたりする。ここ10年以上つけ続けていた日記も、受賞決定直後から2カ月ほどの期間、1行も書けていない。

 この間は華やかな出来事も沢山あって、人生でただ一度の貴重な経験をしたはずなのに、反芻できないとはもったいないことである。

 ならばせめて受賞直前までの日記を振り返ってみようと、候補入りの知らせがあった日のページから読み返してみた。

■某月某日(いつ候補入りの連絡がくるかは明記しないほうがよさそうなので、具体的な日時は伏せる)

 よけいなSNSの書き込みを見て、あ、すいません……となる。うつうつとしたまま歯医者へ。うつうつが続きながら夕飯買い出し。帰宅後、同じ番号から何件か着信あるのに気づく。宅急便の不在通知があったのでその件かと掛けてみたら、きちんとした女性が出て、こちらから掛け直すとのこと。「日本文学振興会の」と名乗られる。朗報!

 よけいなSNSの書き込みとは、別に自分自身が批判を受けたわけではなく、私と同じような言動をした人が非難されていてくさくさしただけ。そんな中での候補入りの吉報に、一気に視界が明るくなった。

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source : 文藝春秋 2026年8月号

genre : エンタメ 読書