【イベントレポート】続・新リース会計基準の衝撃~上場企業に問われる子会社・グループ対応の現実解~

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リース会計を大きく変えたIFRS(国際財務報告基準)16号に準拠して、リースをバランスシート(B/S)に計上することを原則とする日本の新リース会計基準が、2027年4月以降開始の事業年度から適用される。これにより、企業にとっては会計業務の負担増、B/Sが膨らむことによる財務諸表の見え方が悪化することが懸念される。この“衝撃”を緩和するに、何をすべきなのか。専門家らが新基準への対応の仕方を解説した。

■基調講演

そもそもリース会計とは何なのか
~IFRS第16号成立までの背景と日本の対応

青山学院大学大学院
会計プロフェッション研究科特任教授
鶯地 隆継氏

1981年神戸大学経済学部卒、住友商事入社。1993年英国住友商事経理課長(ロンドン駐在)、2005年住友商事フィナンシャル業務部長(内部統制プロジェクト責任者)、2008年住友商事フィナンシャル・リソーシズ・グループ長補佐。その間、企業会計審議委員会臨時委員(内部統制)、IFRS解釈指針委員会(IFRIC)委員を務める。2011年7月から2019年6月まで国際会計審議会(IASB)理事。2019年10月より2023年12月迄有限責任監査法人トーマツ パートナー、2020年6月から2022年6月迄 日本銀行金融研究所客員研究員、2024年4月より現職。日本証券業協会キャピタルマーケットフォーラム専門委員。

日本の新リース会計基準の原型となったIFRS(国際財務報告基準)16号の設定に関わった元IASB(国際会計基準審議会)理事の鶯地隆継氏は「IFRS16号への対応は、リース会計の本質や目的を踏まえ、真に必要な会計処理なのかを各社で考えてほしい」と語る。

産業リースの歴史は、16世紀英国由来の詐害行為防止法により、米・ペンシルベニア州で鉄道車両の割賦販売が認められず、トラスティ(信託会社)が車両を購入、リースする方式を発明したことに始まるとされる。1930年代には、米国のスーパーマーケットが、店舗用地を銀行などに売却後にリースバックを受ける「セール&リースバック」方式で、店舗網拡大の資金を調達するようになると、不動産負債がB/Sに計上されないことが問題視された。60~70年代にリース会計基準が整備される中で、実質的購入を「キャピタル・リース」としてオンバランス(資産負債計上)とし、リース期間が耐用年数の75%以上、リース料の現在価値が時価の90%以上というキャピタル・リースの数値基準も定めた。しかし、基準ギリギリで、オフバランスにする契約が横行。90年後半に主要国の会計基準設定主体が合同でまとめた報告書は、すべてのリースの使用権資産と負債を原則としてオンバランスにすることを提案。十数年の議論を経て、IFRS16号(2016年公表)で導入された。

IFRS16号は完璧な基準ではない

しかし、IFRS16号には多くの概念的あいまいさが残る。鶯地氏は「サービスに含まれるリースを判定しなければならないという、より困難な問題も生じた。IFRS16号は完璧な基準ではない。個人的意見だが、これからの経済活動の主力である無形資産を適切にとらえられない、この基準は既に時代遅れになりつつあるのではないか」と指摘する。

IFRS16号は、12カ月以内の短期や、少額のリースの適用免除を認めるほか、投資家の評価に重要な影響を与えないことが合理的に判断されれば、会計処理を簡便化できる「重要性基準」も示している。「過度に細かな実務にならないように、各社がリースの財務への影響の重要性を判断することが大切だ」(鶯地氏)。

■課題解決講演1

新リース会計基準の3大論点と公認会計士合格レベルのAIが新リース会計のリース判定を自動化

ファーストアカウンティング株式会社
代表取締役社長
森 啓太郎氏

1974年6月3日生。ソフトバンク株式会社を経て、アカマイ・テクノロジーズ日本法人立ち上げに参画。営業本部長に就任し、2008年度営業成績は世界No.1などの実績を残す。シンギュラリティが起こりつつあるAIを使うことで会計システムへの自動入力や確認作業の自動化が可能となれば、経理の人手不足の課題解決できると共に、企業価値の向上など重要業務にリソースを割くことができると考え、2016年6月にファーストアカウンティングを設立。

公認会計士試験(短答式)で正答率100%を記録した経理特化型AIを開発し、経理領域で人の知能を超える「経理シンギュラリティ」を目指しているファーストアカウンティングの森啓太郎氏は、企業が抱える新リース会計基準の課題に、契約ごとのオンバランス・オフバランスの識別の難しさなどを挙げ、「判断のロジックを積み上げることが重要」と指摘。同社AIは「監査法人と合意できた自社の会計方針も学習でき、現場レベルでも正確なリース判定が可能になる」とアピールした。

リース契約の論点

リース期間】リース期間は、解約不能期間に、「合理的に確実」な延長・解約オプションの期間を加減したもの。期間を主観的判断で、あいまいに決めていると、期間変更に伴う再計算などにより、経理業務の負担が重くなる。「合理的に確実」な判断のため、経済インセンティブに基づくコスト比較などで客観的論理を持って監査法人と協議する。

リースの識別】原則に従って、すべてのリースをオンバランスにすると過大計上等につながる。リース識別の方針は、ASBJ(企業会計基準委員会)のフローチャート(図は森氏の投影資料)を参照して、監査法人と協議する。「たとえば、本社所有ビルに入居する子会社は、フロア等の変更を求められる可能性が高い。特定された資産がないとして、リースにならないケースがある」(森氏)。

重要性基準】300万円以下のリースはオフバランスが認められるが、300万円超でも、重要性基準に照らして財務諸表利用者の意思決定への影響が乏しいと判断できれば、オフバランスにできる可能性がある。
借り上げ社宅の例では、年1度の人事異動に合わせたというロジックで1年未満の短期契約、あるいは2年更新で300万円以下の少額リースでオフバランスにする会社がある一方、オンバランスの会社もある。「リース会計は、他社事例などの情報を収集することも大事だ」(森氏)。

■特別講演1

三井住友ファイナンス&リースの対応~借手としてのグループ対応、貸手としてのお客様支援

三井住友ファイナンス&リース株式会社
取締役常務執行役員
(CFO兼CRO 経理部・財務部・リスク管理部担当役員、企画部・広報IR部副担当役員)
渡辺 敬之氏

1989年4月に住友銀行へ入行。2019年4月執行役員に就任、ホールセール部門副責任役員、リテール部門副責任役員。2022年5月に三井住友ファイナンス&リース株式会社常務執行役員に就任。審査部門を担当、審査・債権管理体制の高度化を推進。2025年4月より株式会社三井住友フィナンシャルグループ常務執行役員(ホールセール事業部門長補佐)に就任(現職)。2026年4月より三井住友ファイナンス&リース株式会社 取締役常務執行役員(CFO兼CRO 経理部・財務部・リスク管理部担当役員、企画部・広報IR部副担当役員)に就任(現職)。グループのホールセール事業およびリース事業における経理財務・リスク管理・経営企画分野を担い、経営基盤の強化に取り組んでいる。

リースを知り尽くす三井住友ファイナンス&リースの渡辺敬之氏は「リース業は貸手だが、事務所や設備の借手の立場にもある。“新リース会計の衝撃”緩和の参考になれば」と、同社の会計実務を紹介した。

新リース会計で検討した3つのポイント

重要性基準】実務負担軽減のため、重要性基準の積極的な適用を検討した。同基準は、事業内容に照らして重要性が乏しく、かつ1件あたりの金額も重要性に乏しいリース契約のオフバランスを認めている。金額は300万円基準に加え、企業会計原則における「重要性の原則」を適用、「1件当たり1億円程度まで」は重要性のないものとして、社宅や営業車等の費用処理を継続する方針。
実質リース】リース・賃借契約以外にも実質リースと見なされるケースがある。が、すべての契約を調査することは困難なので、勘定科目をシステム費など4科目に限定し、データソースは経費申請データのみを調査対象とすることで監査法人と合意。データセンターの利用サービスのうち、専用のサーバーラックなどを実質リースと識別した。
リース期間】「合理的に確実」な期間は、経済的インセンティブに基づき「蓋然性が相当程度高い(80~90%)」期間となる。そこで「移転を思いとどまる理由がない」小規模な地方事務所は、移転に要した期間が9カ月だった過去の例から、契約開始9カ月後に「解約しないとは断言できない」としてリース期間を9カ月と見積もった。

同社は、自社のリース会計業務を省力化するため、解約不能期間、解約オプション、延長オプション、経済的インセンティブのパラメーターを契約書から抽出して、リース期間を自動判定するAI機能を開発した。こうしたリース会社のノウハウを組み込んだデジタルプラットフォームは「assetforceリース会計パッケージ」として販売している。

新リース会計の原則はオンバランスだが、特定条件の残価保証付きリース、シェアリングのスキームで、一部がオフバランスになる可能性もある。「新基準は、国際的整合性と『簡素で利便性の高い』ことを開発目的に掲げていたが、実務負担は大きい。重要性基準の適切で積極的な適用、デジタルツール活用で負担を軽減することが重要だ」(渡辺氏)。

■課題解決講演2

契約書管理から始める、Sansan社の新リース会計基準対応
~アナログ作業の限界を突破!AIによるリースの特定と実務効率化

Sansan株式会社
財務経理部部長
黒田 真吾氏

前職の飲食業界で経理のキャリアをスタート。IPO準備、事業分割などの組織再編に携わり、経理部長を経験後、2019年7月にSansanへ入社し、財務経理部へ配属。上場後の経理グループの体制強化を図り、部長として決算業務の効率化と最適化を推進している。

リース契約書を網羅的に確認する必要がある新リース会計基準の対応は、経理だけでなく、契約管理の問題でもある。しかし、Sansanが実施した意識調査(2025年4月)では、契約担当の6割が新基準を「知らない」と回答。「経理に比べ契約管理担当の認知は低く、当事者意識が薄いと言える」(Sansanの黒田真吾氏)。

高精度なデータ化が効率化のカギ

リース契約を漏れなく見つけるには、まず社内のすべての契約書を収集、データベースを構築することが望ましい。だが、電子と紙が混在し、様式もバラバラな契約書のデータ化は手間がかかる。Sansanの契約管理サービス「Contract One(コントラクトワン)」は、電子契約書はアップロード、紙の契約書は同社スキャンセンターに送ると、名刺情報管理サービスで培ったOCR(光学文字認識)技術と、オペレーターによる重要項目の手入力との組み合わせにより、高精度にデータ化。さらに名寄せの技術で、データ同士の関連付けをすることにより、取引の変遷を可視化し、必要な契約データを素早く取り出せる、構造化されたデータベースを作ることができる。

データベースができれば、AIを使ってリースに該当する可能性のある契約を抽出できる。Sansanは、社内17500件の契約から、プロンプト(指示文)に「特定された資産」の条件を記述して2000件を抽出。さらに、抽出された契約から新たに見つけたキーワードをプロンプトに加えて再検索することで網羅性を高め、計3300件を抽出した。

「リースに該当する可能性のある契約を漏れなく抽出するには、全社の契約を網羅的に調べる必要がある。社内のあらゆる契約書を見える化、高精度にデータ化して、契約の抽出にAIを活用することで、作業負担を減らし、効率的に新基準対応ができる」(黒田氏)

■課題解決講演3

新リース会計基準へのグループ対応
―子会社管理のばらつきが生むリスクと実務統制の進め方―

株式会社クレオ
マーケティング室室長
平田 惠輔氏

様々な業界でフリーランスの営業として活動後、2007年にクレオに入社。エンタープライズ市場向けERPシステム事業の営業、プロモーション担当を経て、現在は成長戦略策定からブランディング、新規事業のスタートアップ支援などのマーケティングを担当している。

エンタープライズ向けの統合会計ソリューション「ZeeM(ジーム)会計」を提供するクレオの平田惠輔氏は、グループ企業のユーザーが、子会社の「統制強化」と、自律性に配慮した「個社最適」を両立させるシステム環境について語った。同社は、新リース会計基準適用に備え、オフバランスのリース契約を、個社ごとにオンバランスに一括変換できる自動計算機能や、過去の決算との整合性を図る使用権資産の遡及計算機能など、初年度に想定される会計処理機能をリリースしている。

子会社の個社最適も考慮した分割統制の仕組み

グループ企業のユーザーは、以前から、子会社ごとに管理方法がバラバラなリース資産情報の把握に課題を抱えていて、統制強化のためのシステム化を検討していて、新リース会計を機に動きが加速した。そこでは、グループの分散統制の方針を維持するため「一律な統制より、統制を利きやすくするためにグループで使える仕組みに着目したシステム化が求められる」(平田氏)。

そこで、同社プラットフォームは次の3点を重視した環境を提供する。
実用性】子会社によってデータの形式が違っても、ファイル変換機能でデータ連携が可能で、全社的な資産管理も実現できる。
安全性】ログインIDでアクセスできる情報、業務処理の権限を制御。
継続性】マスターデータがコピー可能で、システム環境の再設定が容易なため、M&Aや組織再編にも柔軟に対応できる。

「全社一律のルールを課して運用するなら、パッケージ化されたシステムも良いが、分割統制の維持・進化を希望するグループ企業は多い。当社は、1つのプラットフォームをグループ利用することで、連携を維持しながら子会社ごとの分散運用に対応する。また、グループ共通の申請フォームを使って契約データを登録するといった統一的運用も可能な仕組みを提供している」(平田氏)。

■特別講演2

新リース会計基準、実務対応の勘所を最終点検
~子会社、グループにおけるリース会計、リース税務対応、貸手、借手の会計処理の留意点

公認会計士
一般財団法人会計教育研修機構シニアフェロー
井上 雅彦氏

中央青山監査法人代表社員、有限責任監査法人トーマツパートナー執行役を経て独立開業。一般財団法人会計教育研修機構シニアフェローを務める。元トーマツリースクレジットインダストリー.リースリーダー。リースに関する監査、アドバイザリー業務に長年携わる。リース関連書籍10冊、セミナー講演多数。

「監査法人は、新リース会計のリースの識別、リース期間見積もりを中心に見ることになる」。リース会計実務について多くの著書がある公認会計士の井上雅彦氏は、監査への対応について解説した。

リースの識別では、リースと認識すべき取引を漏れなく抽出するため、動産リースに加え、不動産、それに倉庫の保管サービスや物流委託など実質リースに該当する可能性がある取引を網羅的に洗い出す必要がある。具体的には、現場に調査票を配布して情報を収集▽リースを含む可能性が高い勘定科目の調査▽契約書管理システムの台帳確認――といったアプローチを複数組み合わせる。収集した契約情報は、適用指針33号設例1のフローチャートに準拠してリースを判断。「網羅的に洗い出し、適正に判断したことを監査法人に証明できるように、洗い出しの手法、契約を一覧化したシート、フローチャートに準拠したリース判断の過程・根拠などを文書化しておくことが重要」(井上氏)だ。

5年後のことは「合理的で確実」と言えるか

もう一つの重要論点がリース期間の見積もりだ。経営の意図や見込みではなく、経済的インセンティブを生じさせる要因に焦点を当て、延長・解約オプションの行使・未行使が「合理的に確実か」(確率8割程度が目安)を基準に、様々なシナリオを想定して分析を行い、判断の根拠を文書化した上で監査法人と交渉する。長期のリースは資産・債務を膨らませてP/Lにも影響する。「今は長期利用するつもりでも、競争環境の変化、経営者の交代、計画改定などを機にリースも見直されるはずなので、5年先、10年先について8割以上の確実性を持って言えることは多くはないのではないか」(井上氏)。

新リース会計では、会計業務の負荷も増す。従来基準で容認されている所有権移転を伴わないファイナンスリースのうち、1契約300万円以下の取引をオフバランスにする例外的処理や、会社のリース比率で一定の要件を満たした場合に利息配分計算を不要にする簡便的な処理も引き続き認められる。「借り上げ社宅などは引き続き賃借料で処理できる可能性がある。省力化のために使える規定は使うべき」と語った。

2026年4月21日(火) 開催

source : 文藝春秋 メディア事業局