オウム真理教 死人のような「天才信者」

伝説の刑事の独白 第2回

大峯 泰廣 元警視庁捜査一課理事官
赤石 晋一郎 ジャーナリスト
ニュース 社会

教祖・麻原の洗脳から救うことはできなかった

土谷正実・地下鉄サリン事件当日の築地駅前 ©時事通信

 春陽が麗らかに射す、気持ちのいい日曜日だった。1995年3月12日、近くの公園では家族連れが休日を楽しむ一方、埼玉県の自衛隊・朝霞駐屯地には物々しい空気が漂っていた。私の所属する警視庁捜査一課のメンバー全員が招集されていたのだ。警視庁が訓練で自衛隊の施設を使用するのは極めて異例のことだ。

 グラウンドには240人余りの捜査員が怪訝そうな顔で並んでいた。訓練の目的が知らされていなかったためだ。その後始まったのは、ガスマスクの着脱訓練、噴霧器による洗浄訓練だった。

「オウム真理教か……」

 誰もがそう直感した。

 約1週間前、東京・品川区の公証役場事務長(仮谷清志さん)の拉致事件が発覚し、オウム真理教の関与が疑われている最中だった。強制捜査は目前と囁かれているなかでの、この極秘訓練だ。教団が保有しているとされる化学兵器・サリンへの対策なのだろう。

「地下鉄サリン事件」発生のわずか8日前のことだった。

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source : 文藝春秋 2019年5月号

genre : ニュース 社会