新しい血

巻頭随筆

東山 彰良 作家
ニュース 国際 中国 読書

 今年1月11日に行われた台湾総統選挙では、大方の予想通り民進党・蔡英文が再選を果たした。820万票を集めての圧勝だった。

 対立候補の国民党・韓国瑜は「安全でお金持ちの台湾がいいか、危険で貧乏な台湾がいいか」と民衆に問いかけた。台湾独立を主張する民進党が勝てば中国が黙っちゃいない、逆に我々国民党が勝てば14億の市場が開けているぞというわけだ。が、そのようなポピュリズムに与したのは550万人に留まった。つまり台湾人のおよそ6割が、たとえこれから危険が待ち受けていようとも、商売よりも台湾人としてのプライドを重視したのだ。

 選挙の2日後に台湾がまた沸いた。中国の顔色をうかがって台湾と断交する国が続出するなか、チェコのプラハ市と台北市のあいだで姉妹都市協定が締結されたのだ。私はウィンストン・チャーチルのかの有名な言葉を思い出した。1938年のミュンヘン会談で、英仏伊はアドルフ・ヒトラーの要求に屈してドイツ系住民が多く暮らすチェコスロバキアのズデーテン地方をドイツに割譲した。会談に臨んだ英首相ネビル・チェンバレンに対して、チャーチルはこう言い放った。「我々は戦争か不名誉かを選ぶ破目になり、不名誉を選んだ。そして得たものは戦争なのだ」

 相手が本気で戦争をするつもりなら、それはどうしたって起こる。台湾は名誉と自由を選んだ。あとは中国の出方次第だ。これから中国は台湾に対して外交的、経済的圧力を強めてくるだろう。しかし個人的には、習近平が武力行使をすることはないのではないかと思っている。それとも、それは私のような台湾以外の国に暮らすディアスポラの無責任な希望的観測に過ぎないのだろうか。そうかもしれない。いったい誰に習近平の腹の裡が読める?

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source : 文藝春秋 2020年3月号

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