西川氏
2020年10月に文化功労者に選出されました。漫才の分野では初めてです。本当に大変驚きました。漫才は平安時代に始まった太夫と才歳という二人一組の芸が原型といわれて歴史は長いですが、歌舞伎や落語などたくさんの芸事がある上方では歌や舞の合間をつなぐ存在でした。それが今回、文化のひとつとして漫才師が仲間入りを認められ、「やったあ!」と飛び上がるほどうれしかったです。家内もよかったねと泣いていました。
早速、相方のやすしさんにも報告しました。僕はどこにいても毎朝毎晩、やすしさんに手を合わせています。易学を勉強されているかたによると、いつも僕のそばに付き添ってくれているそうなんです。僕のなかでやすしさんは変わらず元気なままです。
最近ではもう1人、報告する方が増えました。渡哲也さんです。1978年にNHKの『ビッグショー』という番組に、渡さんが僕をゲストに招いてくださいました。面識もないのに、あの大スターから声がかかって「前川清さんの間違いではないの?」「渥美清さんでは?」と何度も確認したほどです。でも、僕だったんです。渡さんは当時、僕とやすしさんで司会をしていた『プロポーズ大作戦』という番組のファンだったそうです。「家族全員、家で癒やされています」と渋い声でおっしゃって。お目にかかってからは弟のように可愛がっていただき、40年以上仲良くさせていただきました。
一度、僕の息子と渡さんのお宅へうかがったとき、石原裕次郎さんがいらしたんです。扉を開けたら2人が並んでいらして、それはもう半端ないオーラ。今でも鮮やかな記憶として残っています。一緒に飲んだお酒まではっきりと覚えている。裕次郎さんが「これ、流行っているんだよ」とグラスに砕いた氷を入れて牛乳を8割ほど注ぎ、レミーマルタンを垂らしたんです。牛乳は胃に粘膜を張って胃袋を守るから何杯でも飲める、とおっしゃる。そんなお洒落なものは生まれて初めてで「東京は凄いところだなぁ」と感激しました。
裕次郎さんに「昔からファンでした」とおっしゃっていただいたのもうれしかったですね。渡さんからは「西川くんの笑いは身近なネタが多い。落ち着いて見られるんですよ」と誉めていただきました。
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source : 文藝春秋 2021年2月号