国立競技場を満員にした約5万7000人の観衆の前で、優勝したときにだけ歌うことのできる部歌「荒ぶる」を唱和する――1月11日、ピッチで私は感無量でした。11季ぶりのラグビー全国大学選手権の優勝、その上、昨年準決勝で敗退した宿敵の明治大学を跳ね返しての勝利です。
早大ラグビー蹴球部の監督就任への打診をOB会から受けたのは、2017年のクリスマスでした。当時、成績が低迷していた早大ラグビー部の監督を引き受けることは、周りから見れば火中の栗を拾うようなものだったでしょう。また、勤めていた三菱重工での法人営業の仕事も充実していました。
その一方で、「自分の成果を求めることだけが大切なのか」という気持ちもありました。監督は、望んでできる役職ではありませんし、母校のチームを少しでも良い方向に導く役に立てるならばと、創部100周年の節目の年に、監督の任を受けました。
しかし、着任してチームを見て思ったのは、学生たちが「受け身だな」ということ。そして、「失敗を恐れている」ということ。選手のみならずスタッフも含めてです。グラウンド上の練習も、裏方の仕事も、ほぼほぼ指示待ちでした。
もちろん、チームにはいろいろな形があります。“原巨人”という言葉があるように、カリスマ性のある監督が、チームを引っ張っていく方法もあるでしょう。でも、僕にそんなカリスマ性はない。
むしろ、早稲田のラグビー部らしさとは、学生が主体性を持って競技に取り組むことだと考えていました。
それは、僕が早稲田大学高等学院のラグビー部時代に薫陶を受けた、元日本代表監督の大西鐵之祐先生の指導方針でもあります。
大西先生は理論派であり、ご自身が戦争を体験されたからこそのフェアプレイ精神を大切にしていました。そして、選手に対しては「ラグビーのような激しいスポーツに向き合うには、一人一人の主体性が大切だ」という姿勢で接していました。
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source : 文藝春秋 2020年3月号