「おうちで読もう!」辻村深月と綿矢りさが小中高生に全力で薦める“極上の12冊”

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臨時休校になった子どもたちに向けた特別企画。人気作家2人がイチオシ作品を一挙に公開。 『ズッコケ』、『ハルヒ』、『蠅の王』……これを読めば、退屈な時間もハッピーだ!

一緒の時間が増えたのは良かったが……

 辻村 コロナウイルス対策で3月2日から始まった小中高校の臨時休校から3週間以上経って、もう春休みに突入してしまいました。

 我が家には春から小3になった男の子と、4歳の女の子がいるので、休校の影響を大きく受けています。

 綿矢 うちは4歳の男の子が一人なので、辻村さんの下のお子さんと同い年ですね。

 辻村 男の子は大変ですよね。

 綿矢 もう怪獣みたい(笑)。私たち、いまスカイプで対談していますが、自分がカメラに映るとすごい興奮しちゃうと思うので、夫に面倒を見てもらっています。

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 辻村 うちも休校が始まってから学童に行っています。ふだんは半日で、いまは一日中預けているので、ストレスが溜まるだろうから、早めにお迎えに行ったりしています。いつもより一緒に過ごせる時間が増えたのは良かったと思いますが……。

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web会議システムを使用しての対談でモニターに映る綿矢氏

 綿矢 保育園からも、登園自粛のお願いがありました。それはよくわかるので休ませているんですが、お外も、子ども受けがいい施設は閉まってるんです。

 辻村 学校の友達に会えないのがストレスになるみたいですね。小3だからお留守番もできるんですけど、急遽キッズケータイを買ったり。あとは、アニメの『妖怪ウォッチ』とか『ポケモン』、『魔入りました! 入間くん』を見てます。

 綿矢 うちも同じような感じです。レゴと『ドラえもん』、『おさるのジョージ』を見て過ごしていますよ。夜になると絵本を持ってきて「読んで」って言われます。

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辻村氏

 辻村 今回は、家に缶詰めになっている子どもたちにお薦めしたい本という対談なので、時間があるからこそ楽しめるシリーズ物を考えたんです。普段の学校生活だと、部活やテストがあって、次の巻、次の巻って読み進めるのは難しいですから。

大人気『どっちが強い!?』

 綿矢 辻村さんが小学生向けにお薦めした『どっちが強い!?』シリーズ、私は知らなかったんです。

 辻村 息子が今とってもお世話になっているシリーズです。KADOKAWAがマレーシアで出資した会社が制作しているフルカラー漫画で、『サシハリアリ vs グンタイアリ』とか、『ゾウアザラシ vs ホッキョクグマ』とか、ありとあらゆるものを戦わせているんです。

 綿矢 結構分厚いですね。うちの子もすごい好きになりそう。

 辻村 息子のクラスにも広まっているんです。春休みに入ってお道具箱の整頓をしていたら、名刺大に切った紙に「『どっちが強い!?』グループに入るには」って書いた、“会員証”があったんです! 「2冊以上読んだことがある」、「どっちが強いクイズに3問答えられる」といった参加資格があって、『どっちが強い!?』が好きな子たちでグループを作っているんだと分かりました。

 親御さんの中には漫画より活字の本を読んでほしいと思う方もいるかもしれないですが、クイズを出し合ったり、自分たちが選んだ本がコミュニケーションツールになるっていうことの最初を子どもたちは味わってるんだなと思ったら、なんかすごくうれしくて。休校中にも、新刊の『クロアナグマvsミツアナグマ』が出ました。

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 綿矢 だんだんマイナーな対決になってません? どっちが勝つかほんまにわからへん。

 辻村 そうなんですよ(笑)。うちの子どもは、発売日までにお小遣いを貯めていました。

 綿矢 どっちが強いかの勝負は、最後殺しちゃうんですか?

 辻村 たぶん、やっつけていると思います(笑)。日本で描いている漫画だと、両方違って両方良いみたいな結論になるかもしれないですが、シビアにどっちが勝ったか、毎回結果が出るんです。そういうところも男子にぐっと来るんでしょうね。

 気に入ったところを「ね、ここだけ、ここだけでいいから読んでみて」ってもってきたりするんですよ。自分がぐっときたところを誰かに見せたいと思うなんて、まさに本を読む楽しさの入り口だなあ、と思って。本当にお薦めです。

 綿矢さんが挙げた『大きな森の小さな家』は、『インガルス一家の物語』のシリーズの中の1冊で、私が子どもの頃も女の子に人気でした。

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 綿矢 その中でも、1冊目の『大きな森の小さな家』は今思い返しても生き方が衝撃的でした。1番覚えてるのは主人公のローラがお人形の代わりにトウモロコシの芯を抱いている文章です。お姉さんが持ってる布でできた人形がすっごいうらやましいんだけどクリスマスまでもらえないからトウモロコシの芯を人形に見立てて抱いているという。一家は人里から隔絶されたところに住んでいるから、豚のしっぽまで大切に食べたり、雪にシロップをかけて飴にしたり。工夫して生活する様子を真似したくなりました。

 没頭して家で本を読める今だからこそ、アメリカの開拓時代という、全く違う世界の話もリアルに読めるかなと思いました。

 辻村 もしかすると小説を原作にしたドラマと、記憶が混乱しているのかもしれないですが、私が印象的だったのは、お父さんが学校を作ろうと言い出す場面です。学校って私にとっては、毎日行かないといけない義務の場所だったんですが、ローラのコミュニティの中からは、学校に行きたいという気持ちが自発的に生まれていました。学びたい気持ちは人間の普遍的な欲求なんだというのが子ども心に衝撃でした。

 綿矢 そして、辻村さんが挙げた『ズッコケ』シリーズも名作ですよね。私もたくさん読んでいました。

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 辻村 シリーズ50冊が、2004年に完結しましたね。その後、3人の40歳から50歳までの姿を描いた大人編も、10年間続きました。

 綿矢 私は『ズッコケ三人組の未来報告』が好きだったなあ。ネタバレしてしまうと、全部ハチベエの夢だったという話なんですけど、ハチベエが出世してすごい立派になっていて、世の中こういうもんなんかなって思ったり。

 辻村 私も『未来報告』覚えてます! クラスのリーダー格ではない、安藤圭子という2番手の女の子とハチベエが結婚しているのがとてもリアルだった(笑)。

 綿矢 1番手の女の子は、ハカセのことが好きなんですよね。

新聞に似た文体の『ズッコケ』

 辻村 50巻あると、ホラーやミステリ、SFなど色んなお話がありますが、私は現実寄りのジャンルが好みで、『うわさのズッコケ株式会社』が好きでした。株式の仕組みから会社解散まで、本当にわかりやすくて勉強になったんです。あと、大人が思ういい子どもじゃなくて、子どもの自分たちに近い目線で書かれている主人公たちだったことも惹かれたポイントでした。

 綿矢 『ズッコケ』シリーズは、新聞記者っぽい書き方やったなって覚えています。子ども向けの感じが他の児童文学に比べて少なくて、話も詳しい。子どもだましではなく事実を伝えたいという空気があって、取材も結構してはったんかなって。

 辻村 さすが綿矢さん、文体を見るんですね!

 綿矢 当時、私が読んでいたのは、イギリスの女子寮を舞台にした『おちゃめなふたご』シリーズとか、女の子向けの本が多かったので、よけいにそう思ったのかもしれないです。硬派な文体で、情報が多かった印象です。

 辻村 私も、『ズッコケ』シリーズからは、信頼できる大人の存在を本の向こう側に感じていました。

 綿矢 私が小学生のころは、戦争を扱った本をよく読んでいました。その中でも、『広島の姉妹』は傑作なんですよ。絶版なので、ぜひ再版してほしい作品です。

 辻村 私は読んだことがありませんでした。

 綿矢 作者の山本真理子さんのご自身の経験を基に書かれた本で、原爆が落ちたときに子どもだけという状況の中、大人がいない心細さが書かれていました。いちばん覚えているのは、京都では「御座候(ござそうろう)」って言う食べものの描写なんですけど。東京だと今川焼って呼ぶのかな?

 辻村 「御座候」って初めて聞きました。良い名前ですね。

 綿矢 作中では回転焼って呼んでるんですが、原爆が落ちたとき、主人公の妹を、お姉さんは自分の身を後回しにして助けます。そのとき、妹は、平和な時にお姉ちゃんが買ってくれた、熱いアンコの入った回転焼の味を思い出すんです。とても身にしみるシーンでした。

耽美に惹かれた

 辻村 中学生向けに挙げてくださった『カステラ、カステラ!』も、美味しそうな描写がお薦めの理由ですか?

 綿矢 少し違って、後でお話しする『蠅の王』とも共通するんですが、カステラも美味しそうでありつつ、なぜかこの絵本には耽美の要素があるんです。

 辻村 おおーー。

 綿矢 『カステラ、カステラ!』は、カステラの由来を辿るストーリーも面白いんですが、絵がちょっとエッチなんです。絵の主張が強い絵本も薦めたくてリストに入れました。

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 辻村 デザイン性が強いですね。左右対称や非対称を、とても意識している感じの絵です。

 綿矢 赤を基調にした色使いやどこか色気のある人物の絵にも、耽美の情熱を感じるんです。

 辻村 中学生くらいだと、耽美なものに惹かれる気持ちってありますよね。あと、持っていると自分がちょっとセンスのある人になった気になれる本を買ったりする(笑)。

 もう一作品の、二反長(にたんおさ)さん編著の『日本のゆうれい話』が入っている『呪いの巻物』シリーズはどうして選ばれたんですか。

 綿矢 中学生の頃、図書館に置いてあった、民話や世界の幽霊話、とんち話などを読んでいたんです。巻数が多いシリーズを読んでいると、この話はすごいぞっていう目利きができるようになってくるんですよね。例えば『牡丹どうろう』とか『四谷怪談』は、やっぱり抜きんでて話が良かった。人生の色んなところで「まるで『番町皿屋敷』みたいだな」と思い出したりして、いい話って作者の意図を超えた強烈なイメージになって人生のいろいろな場面に存在するんです。民話とか怪談とかを早めに読んで、そういった作品に出合ってほしいなと思って、『呪いの巻物』シリーズを選びました。

 辻村 たくさんの話数を読むと、何かを見たときに「あの作品の本歌取りだ」とか、ジャンルが体系的に分かるようになるんですよね。私も同じ気持ちで、『涼宮ハルヒ』シリーズを推薦しました。『ハルヒ』は今の子どもたちにとって、SFを理解する上でのベースになってくれるシリーズだと思います。実は、『ハルヒ』が出たのは私が社会人になってからなんですけど、中学のときにこれを読んでたらすごい楽しかったろうなって羨ましかったんですよ。

 綿矢 あーー。

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source : 文藝春秋 2020年5月号

genre : エンタメ 読書