誌上二人会 コロナ〝鍋〟をぶっ飛ばせ!

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寄席には人がひしめき、落語会のチケットも入手困難。そんな人気落語家の春風亭一之輔(42)、三遊亭兼好(50)両師匠も、コロナ鍋もといコロナ禍で予定が空白に。口が躍る、今しか聞けない貴重な対話。
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初めての落語配信

 兼好 噂に聞いたんだけど、昨晩(4月21日)から、ユーチューブで配信を始めたんだって?

 一之輔 そうなのよ。本当は上野の鈴本演芸場で、4月下席夜の部のトリを務めるはずだったんです。だから同じように30日まで10日間、生配信で落語をやろう、と。

 兼好 目の前にお客さんはいないわけでしょう?

 一之輔 うん、でも反応を気にしなくていいから、楽っちゃあ楽よ。というより、何を言ってもウケているように、自分のイマジネーションで補完できる(笑)。見ている人からは「やりにくいでしょう」とコメントをもらうんだけど、残念ながら見当違い。配信中のメンタルは最強。頭の中で、俺は爆笑王ですよ。

 兼好 そうなのか(笑)。それにしても無観客なのに、噺の最後までよくたどり着くよね。稽古でさえ途中で止まっちゃうじゃない?

 一之輔 それは飽きちゃって?

 兼好 うん、自分で飽きちゃう。

 一之輔 そこはやっぱり、メンタルの強さよ。というより普段は家で座って稽古なんかしないから、いい機会ですよ。なんかね、新しい扉も開けてきた。普段言わねえこと言ってるぞ、っていうね。

 兼好 なるほどね。あとは「これ、ウケるんじゃないかな」と思ってやってみたら外した時の、「あっ……」ていうのもないよね。

 一之輔 方向転換しようとして、さらにドツボにはまることもない。だから本当にビックリするほどウケるんです、俺の想像の中で(笑)。

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三遊亭兼好

 兼好 いや、実は自分も先日、初めて配信で落語をするというのを体験したんですよ。新鮮だったけど、グッタリしちゃって。驚くほど疲れるでしょう?

 一之輔 そう、疲れるのよ。噺を全部丁寧にやっちゃうからね。目の前で寝る人も席を立つ人もいないのはいいんだけど、普段はお客さんが目の前にいるからこそ、雑にできる部分もあるじゃない?

 兼好 お客さんの笑い声にノセられるところがあるんですよね。

 一之輔 目線も自然と左右に散らすんですけど、配信だと「前を向いて喋ってくれ」とコメントが来たりする。俺たちがやってるのは『青年の主張』じゃねえんだから(笑)。

今このへんにコロナが

 兼好 それにしてもこの対談が世に出る頃には、少しはコロナも収まってくれてるといいんだけどなあ。

 一之輔 騒がれ始めた最初の頃は、まくらでもコロナの話をけっこうふってたんだよね。顔のまわりで腕をブンブン払って、「すみません、今このへんにコロナが」なんつって。俺たちもこれからコロナにかかったら、ちゃんと報告しなくちゃいけないんだろうなあ。

 兼好 俺がかかったら大変だなあ、名前が「けんこう」だし。

 一之輔 スポーツ新聞に「けんこうなのに、コロナで不けんこう」とか書かれちゃう(笑)。

 兼好 ……なんて、こんなふうにコロナの話をまくらでして、お客さんも笑っていたのっていつぐらいまでだろう。

 一之輔 3月下旬くらいかな。

 兼好 そのあたりだと、もう危ういというか、だんだんシャレにならなくなってきてた。そこから高座も自粛で、どんどん中止になっちゃったね。俺もあまりに暇だから家で絵を落書きしてたら、娘たちが「もったいないから」と言ってツイッターやらインスタグラムやら、SNSのアカウントを開設してくれました。

 一之輔 兄さんの絵は上手いどころじゃない、あれは金がとれるよ。

 兼好 でもやっぱり家にばかりいるでしょう。普段から腰痛なんだけど、それでも着物の帯がコルセットがわりになっているのか、部屋でジャージのままだと治らないんですよ。家ではどうしてるの? だって、子どもがウジャウジャいるじゃない。

 一之輔 ウジャウジャっていうのは感じが悪いですけど……いや実際、ウジャウジャいますよ(笑)。小学生がふたりと、中学生がひとり。もうね、規則正しいもんですよ。俺も朝飯を食べて、コーヒー飲んで、ラジオを聴きながら、子どもたちが宿題に取り組んでいるのを「ちゃんとやってっか?」なんて冷やかしたりして。

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春風亭一之輔

 兼好 邪魔してんじゃん(笑)。

 一之輔 「うるさいな」なんてあしらわれてね。で、洗濯したり……そうそう掃除はね、学校によくある円状の、当番を回せるやつをつくっちゃった。「今日は誰でしょう〜?」なんつって。それから運動の時間。ラジオ体操みたいなのと、あとは部屋の中で柔らかいボールをパスして回す。落としたら変な踊りを10秒間踊る(笑)。

 兼好 ハハハ、それはいいね。

 一之輔 ねえ、のんきなもんで。そうするともうお昼ご飯。それを済ませたら買い物をして、もう夕方ですよ。「お腹が減った」と晩御飯を食って、「じゃあ寝る?」って。

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調味料がどんどん減る

 兼好 毎日毎日、ほんとそんなもんだよね。俺も女房に文句を言われないように、ずっと掃除とか家事をやってます。

 一之輔 夫婦の間で会話は増えたんじゃないですか?

 兼好 いや、うちはこれまでもずっと、一緒にいる時は並んで同じ方向を向いてるから。なるべく向かい合わないように(笑)。

 一之輔 なんだかドラマの撮影みたいだな(笑)。

 兼好 だから、意外と会話は増えない。同居している次女とは増えてるかもしれないな。娘も仕事をしているから、普段は時間がずれて会わなかったのが、顔を合わすようになる。「お、役立たず」なんて言われるから、「うるさい」と返してね。

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 一之輔 「誰のおかげでそこまで大きくなったと思ってるんだ!」とか言わないんですか?

 兼好 言わない。怖いから。

 一之輔 長女も含めて女3人?

 兼好 そうなのよ。怖いからなるべくベランダに出て、双眼鏡でいろんなところ見て時間をつぶしてる。

 一之輔 それはヤベえやつじゃないですか!

 兼好 女房に家の中から「誤解されるからよして!」なんて言われてね(笑)。それにしたって気づくと米を研いで、また家事をしてる。

 一之輔 醤油の減りが早いよねえ。調味料がどんどん減る。

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 兼好 すべてどんどんなくなっていって驚くよね。で、ホッと一息つくと、『相棒』を見てる。「あっ、もう『相棒』の時間だ」って。

楽屋弁当がうまい!

 一之輔 あと驚いたのは、落語会をやっていると、差し入れでクッキーとか、お菓子をいただくでしょう。もらうと楽屋じゃ食えないから家に持って帰りますよね。

 兼好 そう、それがない!

 一之輔 だから、お菓子を買おうかって。自分でお菓子を買ったことなんか、もうしばらくないですよ。

 兼好 意外と高いんだ、なんてビックリしたりね(笑)。

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 一之輔 この間、酒も買いましたよ、焼酎の赤霧島の瓶を。ビール以外で酒を買ったのも久々ですよ。

 兼好 酒も普段買わないもんね。

 一之輔 四合瓶とか一升瓶とか、たくさんいただきますからね。だからもう、酒を手銭で買うぐらい、俺も落ちぶれたかと(笑)。

 兼好 俺も先日久しぶりに海苔をいただいて嬉しかったもん(笑)。

 一之輔 お中元や稽古の御礼とかで、普段はよくもらいますもんね。

 兼好 そういう海苔や佃煮の類が、家から全然なくなっちゃった。

 一之輔 「ご飯のおとも」系が消えたんですよね。いつもいただくものがどれだけ豊かで、ありがたいものだったかと思いますよ。

 兼好 ほんとにありがたいな、と身に沁みる。あんなに嫌がってた楽屋弁当も、この間、久しぶりに食べたら美味かったねえ(笑)。

 一之輔 家でばかりご飯を食べてるからなんだろうねえ。家庭のご飯って、味が基本薄いでしょう。外のご飯の味の濃さは、久々に食うと格別ですよね。

 兼好 「こんなに美味いんだ」って驚くよ。

 一之輔 小っちゃい頃、モロゾフのプリンを初めて食ったときに、こんな美味えものがあるのかと感じたことを思い出すね。しかも器がまた使えるっていう。

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 兼好 嘘だ! 子どもの頃は器のことまで考えないでしょう(笑)。

 一之輔 いや、思ったよ。これ、ビー玉とか入れてもいいなって。頑丈で、落としても割れなさそうじゃないですか、モロゾフのあの器。

 兼好 どうでもいいや(笑)。いやでもね、先日も遠方のお客さんから「東京は大変でしょう」とお米が届いたんですよ。ありがたいね。

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source : 文藝春秋 2020年6月号

genre : エンタメ 芸能