新大関師弟対談「横綱を狙います」

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師匠は弟子について「入門した当初は光るものがなかった」と語る。そんな朝乃山は、いかにして大関になれたのか。師弟が明かす、成長の軌跡。(構成・佐藤祥子)

正攻法の相撲

 高砂 一発で大関取りをものにして、我が弟子ながら「すごいことだ、よくやった」と思うよ。しかも無観客開催という異例の場所でね。俺の大関取りは7度目の挑戦だったかな。もう何度目だか忘れちゃったくらいだよ(笑)。

 朝乃山 無観客開催と聞いてから、やるからには、気持ちを切り替えて自分の相撲を取るだけでした。「たとえこの場所がダメでも、チャンスは何回もある。今回失敗したとしてもそこで終わるわけじゃないし、また挑戦できる場所も巡って来る」と思っていました。

 高砂 アドバイスとしては、「チャンスは生かさなきゃならない。自分の相撲を取り切るのに集中すること」と言ってはいたんだな。俺の教え方は、すべてそう。「相手がこう来るから今日はこう行こう」って相手によって変えるような相撲取りには育ててないから。迷う必要はないんだ。朝乃山の場合は右四つという型があるから、そこを徹底すればいいだけの話。先場所はその通り取れたんじゃないかな。まだまだ甘いところはあるけど、“のびしろ”があるということだから、それはいいんだ。正攻法の相撲を取れたからこそ大関になれたっていう感覚も、朝乃山は持ってるんじゃないの? 跳んだり跳ねたりする相撲じゃないしな。

 朝乃山 それは、やれと言われてもできないです(笑)。

 高砂 これまでは、巡業や出稽古で上位陣に引っ張り出されていたみたいだが、こてんぱんにやられてしまったように見えても、のびしろがある方がいろいろ吸収するに決まってるんだから。横綱や大関にいいようにやられてるなかで、左の上手の取り方がわかり、踏み込みが大事だとかがわかってくるわけだからな。

 朝乃山 はい。そう思います。

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新大関の朝乃山(右)と高砂親方(左)

もう昇進はないと思った

 高砂 大関昇進の条件として、先場所のノルマは12勝と言われていた。14日目に鶴竜に惜しくも負けて4敗したけど、千秋楽の貴景勝戦に勝てば、昇進するだろうとは思っていたんだ。両横綱には負けてるけど、今までも大関相手に勝って来ているということは、すでに同等の力はあるってことだしな。先場所、豊山と御嶽海に負けたのはしょうがないにしても、そこから立て直したのはたいしたもんだ。その前の場所も5敗になってからあと全部を勝って十番にしたろ? それが底力なんだ。「諦めちゃダメ。まだ終わってないよ」と、そこだけはうるさく言う。大関取りを何回も失敗している親方だから言えるんだよ(笑)。

 朝乃山 自分は昇進すると聞いて驚いたんです。14日目に負けた時に、もう昇進はない、出直しだと思って、親方からアドバイスをもらおうと考えていたんです。でも、千秋楽に勝つのも負けるのも、その内容で印象が違ってくると思っていました。11勝すれば、また次の5月場所につながるとも思ったんで、思い切り行きました。もちろん昇進はうれしかったですけど、やはり横綱のどちらかに勝って上がりたかったです。

 高砂 37年前の俺が大関昇進した時と同じお寺で昇進伝達式をしたけれど、これもありがたいことだよ。俺の師匠だった先代(元横綱朝潮)の時代から、ずっと宿舎として使わせて戴いている。住職さんも喜んでくれたし、先代が生きていたらさぞ喜んでくれていただろうなぁ。伝達式での口上もたいしたもんだったよ。100点満点だったな。

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大関昇進の伝達を受ける

 朝乃山 はいっ(満面の笑み)。「大関の名に恥じぬよう、相撲を愛し、力士として正義を全うし、一生懸命努力します」と、自分の母校の教訓や、大事にしていた言葉を入れたんです。

 高砂 俺も、伝達式で「一生懸命」という言葉を使ったんだけど、事前に打ち合わせもしてないし、たまたま同じ言葉だった。俺の場合は「いっしょうけんめい」って平仮名だったの(笑)。朝乃山は、言ってみれば達筆の漢字での「一生懸命」だったよな(笑)。まぁ感慨深いというか、自分の昔を……思い出さないなぁ。すっかり忘れちゃってるよ、だって37年前だぞ(笑)。

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凱旋パレード

目の前にトランプさん

 高砂 昨年の5月場所では、平幕で初優勝してね。師匠の俺は、何度優勝決定戦まで行って逃したか(笑)。この優勝の翌場所、上位陣と当たって7勝8敗と負け越したけども、価値ある7番だったな。その後の場所はずっと2桁勝てているわけだから、たいしたもんだよ。それだけ稽古をしてるってことでもある。朝乃山は、今後もマイペースでやればいい。俺は「やれやれ!」と尻を叩くタイプではないから、自分でしっかりと頭で考えた稽古をすれば、自ずと本場所に結果が出るはずだから。

 朝乃山 初優勝した場所は、その前の場所で負け越してすごく悔しかったので、「今場所は勝ち越しを目指して、いずれ上位で戦いたい」との気持ちがあったんです。それまでは幕内の下位で行ったり来たりしていて、ちょっと悩みがありました。なかなか自分の相撲が取れなくて……。アメリカの大統領が来るって、まったく意識はしてなくて、終わってみれば、表彰式で目の前にトランプさんがいました(笑)。

 高砂 注目された場所で初優勝し、異例の場所での大関昇進。「もしかしたら運もいいのか?」と言われるかもしれないが、それは後になって周りが思うものなんだよな。本人はそんな余裕はないって(笑)。現に14日目に優勝が決まり、千秋楽にトランプ大統領が観戦してる目の前では負けているわけだし。大統領にしたら、「え? 優勝したヤツが負けたの?」って思うよな(笑)。

 朝乃山 はい。表彰式にトランプ大統領が来ると聞かされていたんですが、急な予定変更で「是非とも優勝力士の取組が見たい」とのことだったんです。それなのに……負けちゃいました(笑)。

 高砂 そんなもんだよな(笑)。俺は朝青龍というモンゴル出身の横綱を育てたあと、「次は日本人横綱を育てたい」との思いがあったけれど、朝乃山には、その可能性は間違いなくあると思う。ちょうど今の相撲界は端境期だし、チャンスなんだ。大関も貴景勝ひとりしかいなかったし、ふたりの横綱も休場が多くてくたびれて来ている。運は持って生まれたものもあるかもしれないけど、もちろん運だけじゃ勝てない。ここまで自分が頑張って切り開いてきたからこそ、今の運があるとも言える。ボヤーッとしていたら運も逃して終わっちゃうんだから。時には運も味方につけないといけない。

 朝乃山 はい(神妙にうなずく)。

使用_20040601BN08528_アーカイブより_トリミング済み
 
朝青龍(左)と高砂親方(右)

 高砂 運と“縁”も大事かな。縁があって高砂部屋に入門したわけだし。

 朝乃山 はい。もとはといえば親方は近畿大学相撲部の大先輩でした。同じ近大の、部屋付き親方である若松親方(元朝乃若)が、朝玉勢をスカウトに来て、それを隣で聞いていたんですよ。僕はおまけだったんです(笑)。

 高砂 俺だって、近大に入る時は、高校時代に強かったヤツのおまけで入ったんだぞ(笑)。

 朝乃山 他からも勧誘が来てましたけど、高砂部屋に入ってよかったです。うちの部屋はみんな仲が良いですし、アマチュアの世界とプロの世界はしきたりなども全然違うんで、兄弟子たちがいろいろ教えてくださいます。

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source : 文藝春秋 2020年6月号

genre : エンタメ スポーツ