「貸し渋り」など絶対にしない

消費を止めるな 1 三井住友FG

太田 純 三井住友フィナンシャルグループ社長
ビジネス 経済 企業
三井住友フィナンシャルグループの太田純社長(62)は、1982年に旧住友銀行入行。プロジェクトファイナンスを手掛ける投資銀行部門を歩み、昨年4月に社長に就任した。今年3月期決算では、現行の3メガバンク体制になってから初めて、最終利益で三菱UFJフィナンシャル・グループを抜き、首位に立った三井住友FG。そのトップが語る「コロナ後の銀行業」とは。

経済の回復はまだ先

 緊急事態宣言が発令されている間、週2日は在宅勤務という生活を送りました。グループ全体としてはリモートワークが進んで良かった面もありますが、自分に関して言えば、逆の面での影響もかなりありました。というのも、社長の仕事の半分くらいは内外に発信することですから、相手が居てくれなければ、発信しようもないのです。

 ただ、資料を読んだりする時間は増えたので、考える時間は普段より取れた。机にドーンと積み上がったままになっていた本も乱読しました。宮城谷昌光さんの中国の歴史小説が好きなんです。春秋戦国のような入り乱れた時代の中で、宰相がどう国を舵取りしたのか。会社経営にも通じるところがあります。

 5月末に宣言が全国で解除されてからはこちらからお誘いすることはありませんが、お客様から誘われれば、会食に行くようにもなりました。どの店に行っても、以前ほどの活気はありませんね。経済の回復は、まだまだ先というのが僕の実感です。

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太田氏

 今回は、リーマンショックの時とは全く違います。リーマンショックは、総じて言えば、金融機関発の危機でした。ところがコロナショックの場合、サプライチェーンが各所で寸断され、経済活動全体が止まりました。影響する範囲は広いし、期間も長い。来年立ち直るかと言われても、そう楽観はできないと見ています。

 日本だけでなく諸外国がどうなっているかも影響します。我々のグループに航空機リースの会社(SMBCアビエーション・キャピタル)がありますが、彼らは「3年は覚悟している」と言っているほどです。

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最終利益で初のメガ首位に

初のメガ首位に意味はない

 この未曽有の危機に際し、金融機関が果たすべき役割は、「お客様の資金繰りをどう支えていくか」に尽きます。資金繰りにさえ目途がつけば立ち直っていけると判断した企業には、お金を出していく。コロナ対応を担う病院や医療機器メーカーに、総額で最大1000億円を低金利で融資するファンドも立ち上げました。

「貸し渋り」なんかしません。そう断言できるのは、リーマンの時と比べて、銀行の貸し出し余力は格段に高まっているからです。単純に言えば、あの頃の当行の不良債権比率は1.2%でしたが、今は0.5%。そのぶん資本は格段に分厚くなり、ポートフォリオの質も良くなっているので、経済に血液を送り続けることはできる。

 この先2年、3年と続くであろうコロナショックを乗り越えるため、社会インフラとしての機能をしっかり果たしていきたいと考えています。

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 三菱さんを抜いたとよく言われますけれど、「勝った」「負けた」に意味はありません。三菱さんは東南アジアの銀行を持たれていて、そこの株価が落ちたことで業績が下がった。逆に東南アジアがドーンと伸びていれば、違う結果になっていたはずです。長期で見れば、東南アジアは今後伸びていく市場ですから、今年どうのこうのと言っても意味はないのです。

 金融業界というのは、「GDPビジネス」だと考えています。日本のようなGDPが伸びない成熟国家で、金融だけ伸びていくことはあり得ません。だから、海外など別のマーケットに打って出るのは当然でしょう。

 ただ、何より問題なのは、単にお金を貸したり預かったりするビジネスから脱却しないと、我々に未来はないということです。

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 かつて銀行の融資業務は、融資の相談を受け、審査をして、お金を貸すことが中心でした。でも、今は違う。借り手が「なぜお金を借りたいのか。何に使いたいのか」を突き詰め、課題を探っていく。「生産性向上に使いたい」と分かれば、「もっと良い方法がある」と助言したり、「当行にはこんな取引先があるので、業務提携したらどうか」と提案したりする。単にお金を貸してそこで終わりではなく、デジタル技術なんかも駆使して、様々な高付加価値のサービスを提供して行かなければ、そもそも生き残っていけません。

 そうなってくると、もはや「銀行」とは言えないかもしれない。でも、それでいいんです。「銀行」という看板を捨ててでも変わらないと、我々は淘汰されてしまう。僕はそう思っています。

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三井住友FG本社

未知の分野に手を挙げて

 こうした危機感を抱くようになったのは、いつ頃からでしょうか。2014年に企画担当役員になった時には、もう明確に「今のままではダメだ」という意識がありました。若い頃から、「プロジェクトファイナンス」という比較的新しい分野でやってきたせいもあるかもしれません。

 今でも覚えているのは、入行5年目の1986年、国際事業部門のヒラ行員だった頃の話です。79年にスリーマイル島の原発事故が起きた米国では原発に頼れなくなり、民間主導で新たな発電所が次々建てられていた時期でした。その話を聞いて、

「面白そうだし、やらせて欲しい」

 と、当時の国際部門のヘッドに直訴したんです。そのヘッドは昨年亡くなった元頭取の森川敏雄さんでしたが、快く「行ってこい」と米国に送り出してくれました。

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 とはいえ、日本ではプロジェクトファイナンスが始まったばかりの時代。具体的に教えてくれる人はいませんでした。何も分からないまま現地に飛んで、アレンジを手掛ける投資銀行を訪ねて回ると、彼らも資金の出し手を探していたところだった。「こんな案件がある」と言って、どっさり資料を送ってくれました。

 でも、当然ですが、契約書からエンジニアリングレポートまで、全部英文です。「2週間以内に回答してくれ」と急かされるのですが、専門用語がダーッと並んだ英文なんか読めやしない(笑)。

 それでも、やっているうちにポイントが分かってくる。資料を読むスピードも上がり、業務をマニュアル化して現地の人たちに任せられるようにもなった。ところが、そもそも本当に有望な案件かどうか、社内にちゃんと審査できる人がいません。だから、それも自分でやりました。僕が所見を書いて、審査部に手渡すと「オッケー」と承認してくれる。だから、稟議が通らなかったことは一度もない(笑)。ただ、自分なりにしっかりと判断はしました。

風車120基で大失敗も

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source : 文藝春秋 2020年8月号

genre : ビジネス 経済 企業