【ろ】「ロジハラ」が広まり正論が通らなくなる?

日本語探偵

飯間 浩明 『三省堂国語辞典』編集委員
ライフ 社会
国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです。

【ろ】「ロジハラ」が広まり正論が通らなくなる?

「ロジハラ」というハラスメントがあるという。ロジカルなハラスメント。ネットでは「正論を振りかざして相手を追いつめること」と説明されます。

 もっとも、「正論」に「振りかざす」という動詞はそぐわない気がする。権威や大義名分、自分勝手な論理ならば振りかざすかもしれないけれど、正論とは、みんなを「なるほど、そのとおりだな」と納得させるもの。正論がハラスメントとされては議論ができません。

 ネットでは、たとえば、こんな事例がロジハラだと言います。〈「どうして相手によって態度を変えるの? スタッフ同士仲間なんだからみんな平等に接しないと」と、現場の事情も踏まえずに公平さを要求される〉(ウェブ「マイナビウーマン」トイアンナ氏)。でも、現場の事情を踏まえない発言なら、それは正論とは言えないわけです。

 たしかに、「智(ち)に働けば角(かど)が立つ」ということはあります。情を置き去りにした議論はよくない。かといって、正論が軽んじられては困ります。などと、私がわざわざ言わなくても、ネットでは「ロジハラなんて成立しない」「単なるネタ」という意見が目につきます。

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source : 文藝春秋 2020年12月号

genre : ライフ 社会