代々木ゼミナールの地理講師でコラムニストの宮路秀作さんは、長年教壇に立ち、多くの学生たちと向き合ってきました。そんな宮路さんは、最近あることを感じているといいます。それは、学生たちが「今すぐ役に立つ情報」ばかりを求めようとすること。
この傾向は学生だけに限りません。資産の築き方、フォロワーの増やし方……大人たちが欲しがる情報も「即効性のある知識」ばかり。今すぐ役に立つわけではないけれど、人間の“強さ”を作る教養の大切さが今の社会では疎かにされているのではないか――。宮路さんは警鐘を鳴らします。
「入試に出るか」に特化した生徒たちのアンテナ
私は代々木ゼミナールという大学受験予備校にて地理講師を生業としています。今回は、そんな私が日々の授業の中で生徒たちを観ていて気づいたことをお話ししたいと思います。
大学受験生の本分は「合格して大学生になること」であり、そのために私を含め、各教科の講師たちがいます。しかし、最近では「即効性がある知識」ばかりを獲得したがる生徒たちが増えた印象です。「それで良いのかな?」「もっと琴線を大事にして欲しいな」と思います。そして、「即効性がある」と彼らが勝手に思い込んでいるだけではないかと危惧している次第です。
「これは入試で問われることが多い知識だからね!」
教壇からそう言うと、ほとんどの受験生は手を動かしメモを取ります。しかし、
「別に入試で問われることはないと思うけど、これはこれで面白いよね~」
に対して、熱心にメモをとる生徒がいたかと思うと、「そんな入試にも出やしない知識を話す暇があったら、さっさと次の説明に移れ!」、……と思っているかどうかはわかりませんが、思ってそうな顔をしてこちらを見ている生徒もいます。
授業中、彼らが張っている「アンテナ」というのは、年々「入試に出るか否か」に特化しつつあり、「自分の琴線に触れるか否か」というアンテナは減りつつあるように思います。
無駄なことの積み重ねが強さを作る
私は「無駄なことに全力を注げること」こそ、底力がある証拠だと思います。「そんな無駄なことをやって何になる!?」という言葉を聞くことがありますが、無駄なことの積み重ねこそ、不測の事態にも対処できる人間的な強さを作ると思います。
効率の良さばかりを求めて色々なものを切り捨てていくと、いざ必要なときにまた獲得するところから始めなければなりません。かえって非効率です。
そもそも、無駄かどうかは他人様に決めてもらうことではなく、知的好奇心を満たすことに関して無駄かどうかは関係ないはずです。
受験生の知的好奇心……、いや興味の対象は「その知識が入試で問われるか否か」です。しかし授業をしているこちらとしては「あれも教えたい、これも教えたい。もっと面白い話を『面白い!』と思ってもらいたい」となって、ついつい授業内容に関連した雑談を交えてしまいます。
私が教えている地理は、得てして「いったい何を学んでいる科目なのか?」がわかりづらい科目です。しかし私は、「地理とは地球上の理」という持論をもっています。地理とは、地球上で展開する自然現象、その上で繰り広げられる人間生活、そしてそのつながりを学んでいく科目だと考えています。
まさしく地理という科目は「いろいろな知見を統合して、地域を俯瞰する」ためにありますので、「えっ!? それは授業には関係ないのでは!?」と思われてしまうような話も、地理を構成する一つだったりするのです。
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