マー君、五輪、携帯料金すべて語ろう

三木谷 浩史 楽天グループ会長兼社長
ビジネス 経済 企業
「世界初の技術」でプラットフォーマーになる——。三木谷浩史(楽天会長兼社長)が脳内で描いている未来とは(取材・構成=大西康之)

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実は、田中将大が7年前にヤンキースに移籍する際、「現役バリバリの時に帰ってきてね」と伝えていた
▶︎コロナ禍は、三木谷氏が携帯料金の値下げに踏み切った決断のきっかけのひとつ
▶︎楽天が2023年に人工衛星を使った通信ネットワークの構築を目指している
③なし
 
三木谷氏

しばらくは声援の我慢を

 東日本大震災から10年となる年に、田中将大が楽天に帰ってきました。一番喜んでいるのは、あの震災の日から前を向いて頑張ってきたファンの皆さんだと思いますが、僕も将大の男気を感じて本当にうれしかった。実は、7年前にヤンキースに移籍する際、「現役バリバリの時に帰ってきてね」と伝えていました。正式な契約があったわけではないけれど、僕の言葉を覚えていてくれたのかな、と。プロ野球史上最高と言われる年俸が、高いか安いかは本人に聞いてください(笑)。

 先日、沖縄のキャンプに足を運んでブルペンでの投球を見たところ、やはり風格が違う。強力な大黒柱が帰ってきたことで、チームの雰囲気も変わってきた。みんな自信がみなぎっています。もちろん、将大を獲得したからといって、簡単に優勝できるとは思っていませんが、良い結果を出してくれると信じています。

 将大の復帰によってプロ野球界全体も盛り上がるでしょう。ただ、やはり心配なのが新型コロナです。先日、厚労省のアドバイザリー・ボードにデータを提供している西浦博先生(京都大学教授)と話をする機会がありました。野球観戦の場合、大声を張り上げる応援を控えれば、ファンの方が会場に足を運んでも大丈夫ではないかとおっしゃっていました。将大が登場すれば、大きな声援を送りたくなる気持ちはわかりますが、しばらくは拍手で我慢をしてほしい。

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 東京オリンピックの開催に不安を感じている人も多いでしょう。僕は五輪組織委員会の顧問を務めていますが、今後、ワクチン接種のスケジュールが大幅に遅れてしまうとピンチだと思っています。

 アスリートの方々は、大会に向けて命がけで取り組んでいると思います。ただ、僕個人としては、なによりも大切なのはみんなが安心して社会生活を送れることだと考えています。ワクチンが十分行き渡らない状況で開催すれば、当然感染拡大リスクはあります。第3波のように都内で200人程度の感染者数が一気に2500人くらいまで増えることもあるわけですから、それでも開催するのであれば、政府は「なぜできるのか」という根拠をきちんと説明すべきです。そこが見えないと、アスリートも観客も、心からオリンピックを楽しむことはできないでしょう。

①推定年俸9億円の田中将大
 
推定年俸9億円の田中将大

なぜ「無謀な価格」に?

 田中将大投手の復帰に沸く一方で、楽天はNTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの携帯大手3社と熾烈な料金値下げ競争を繰り広げて話題となっている。楽天モバイルが4月からスタートする新料金プランは、データ使用量が1ギガバイト以内であれば無料、3ギガ以内であれば月額980円、20ギガ以内で1980円。それを超えた場合でも、2980円で無制限に使うことができる。

 一方、2020年12月期の決算では、携帯電話事業への先行投資がかさみ、1141億円の最終赤字を計上した。ライバル企業からは「採算度外視の無謀な価格設定」との声も上がっている。
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楽天本社

 コロナ禍における自粛生活では、スポーツ観戦だけでなく、遠くに住む家族や友人とのビデオ通話など、スマホを使った様々なアクティビティの重要性が高まりました。それなのに肝心の料金が高く、人々の生活を圧迫している。僕のビジネス哲学としては、「1ギガも使ってない人から月に何千円も取るのはおかしい。もっと安い料金が適切じゃないの?」という思いがありました。

 値下げに踏み切るにはいろいろな準備が必要でした。コロナ禍は、決断のきっかけのひとつ。こういう時期だからこそ、「楽天グループとしてこれまでの感謝を込めて何かできることはないか」と考え、新プランを発表したのです。他社を圧倒する料金水準になったと自負しています。

 たしかに今は赤字ですが、僕には成功への道筋が見えています。1997年に楽天市場をスタートさせた時、インターネットで物が売れるなんて誰も信じませんでしたし、クレジットカード事業やプロ野球に参入した時も、95%の人は否定的でした。ところが楽天市場の流通総額はいまや3兆円にのぼり、楽天カードは、取扱高日本一のクレジットカードになりました。携帯事業も必ずそうなります。

 今回、赤字決算を発表したのは楽天モバイルに必要なのは「お金」だと思っているからです。お金とは、つまり設備投資のこと。基地局などのインフラさえ整えれば、間違いなくユーザーは増えていく。実際、新プランを発表してから申し込み数が一気に増え、決算発表を行った2月12日時点で累計契約申し込み数は250万件を超えた。当面の目標としていた700万契約は確実に達成できると考えていますし、その先もどんどん増えていく手ごたえを感じています。

 昨年末以降、大手3社も新料金プランを発表しています。いずれも5分以内の通話定額オプションを付ければ月額2980円と足並みを揃えた価格設定になっています。従来と比べれば大幅な値下げですから、「そこまでやるんだ」と想定外の部分もありましたが、それでもまだ我々の水準には及びません。

 楽天はデータ使用量が無制限ですが、他社のプランは20ギガという上限を設けている。つまり、それを超えると、高速通信がしたい場合に追加料金が発生するわけです。また、加入する際、他社は「ネット契約に限る」という条件がついていますが、楽天は実店舗でも申し込むことができます。ネットを使いこなせる人は安い契約を結べるのに、ネットに不慣れで店頭に行かなくてはならない人は料金が高い。こうした携帯電話についてのおかしな構図を変えていかなければなりません。

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「土管」では生き残れない

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source : 文藝春秋 2021年4月号

genre : ビジネス 経済 企業