本気で笑える映画、泣ける映画

芝山 幹郎 評論家・翻訳家
エンタメ 映画
おこもりシネマで爆笑して大泣きしてストレスを発散しよう

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▶︎
コメディ映画を見て笑うことで、心が修復されることがある
▶︎大泣きするのもいい。心が浄化されます。ただし、しくしく、めそめそ泣くのは身体に悪いので、わんわん泣くほうがいい
▶︎他人の目にそこまで縛られるぐらいなら、頭を空にしてコメディを見たり、泣ける映画を見たりしているほうが、人生楽しくなる
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芝山さん

映画で心身を活性化

 いま「コロナ鬱」という言葉があるくらいですから、ストレスがたまって、気が滅入っている方も少なくないのではないでしょうか。私も基本的には巣ごもり生活で、たまに散歩したり、自転車に乗ってみたりしますが、それで心身を活性化しようにも、たかがしれています。

 やはり人に会うなり、外部と接触したりしたいものですが、それもままならない状況ですから、せめて本を読んだり、映画を見たりすることをお勧めします。

 そこで心身を活性化させる、腹の底から笑える映画5本、大泣きできる映画5本をご紹介します。

 病気のため気分が落ち込んでいた時期、私はコメディ映画を見て笑うことで、心が修復されたという経験があります。

 一方で、大泣きするのもいい。泣くのは人間の根源的な行為ですから、心が浄化されます。ただし、しくしく、めそめそ泣くのは身体に悪いので、わんわん泣くほうがいい。そこで、お涙頂戴の安っぽい作品ではなく、人間の情感へ深く訴えかける作品をご案内します。

 すでに見たという作品もあるかもしれませんが、ここで挙げた10作品は見るたびに発見があるものばかりです。ぜひ2度、3度と、繰り返し見ることをお勧めします。

 まずは笑える映画を紹介していきましょう。

 1本目は『ホリデーロード4000キロ』(1983)です。

 シカゴ郊外に住む中年夫婦と子供2人の4人家族が、夏休みに家族の結束を固めようと、ダサいステーション・ワゴンに乗って、南カリフォルニアの遊園地を目指すのですが、道中では珍事件や失敗の連続です。

 とにかく、この一家がまず、めちゃくちゃに間抜けなんです。高速道路の出口を間違えてスラムに入り込んでタイヤのホイールを外されてしまうし、お父さんはフェラーリに乗った若い美女に目がくらんで、色男のふりをするし。それに旅の途中で遭遇する人たちも、またおバカ。

 ダサい一家が、ダサい人々の住む土地を転々とするだけでも充分におかしいのに、愚行と愚行が掛け算となって、とんでもないことばかりが起こる。腹の皮がよじれますよ。

 この映画はアメリカで大ヒットして、続編もあります。面白いのは最初の2本。80年代から90年代にかけて、アメリカがアメリカを笑い飛ばすというコメディがありましたが、その見本のような作品です。

『ボラット』で笑い転げる

 それと同じ味わいが『ボラット』(2006)にも流れています。

 主人公のボラットはカザフスタンのTVレポーターで、故郷の発展のためにアメリカ文化を学ぼうと、大陸を車で横断するという設定です。

 この男がとんでもない差別主義者で、ユダヤ人を不当に恐れ、極度に女性を甫視し、法外にゲイを差別する。そのうえ異常に性欲が強い。いわば一部のアメリカ人の映し鏡を思わせる存在なのです。

 そんな彼が、アイスクリーム・ヴァンに乗ってアメリカ大陸を横断するのですが、道中では信じられないほどアホで、ものすごく下劣で、見る側がひやひやするような出来事が連続して起こります。作りは「偽ドキュメンタリー」なのですが、撮影の被写体となった人たちの一部は、フィクションであることを知らされていなかったようです。

 ポリティカル・コレクトネス(PC)のかけらも見当たらないので、これを見て、「こんなことやっていいの?」という顔をしている観客もいました。でも、反PCという次元にはとどまらない。頭の切れる人たちが、痛烈なコメディに仕上げています。ボラット役のサシャ・バロン・コーエンはユダヤ系英国人。ケンブリッジ卒のコメディアンで、今年、『シカゴ7裁判』でアカデミー助演男優賞の候補になっています。

 私はこれを見ながら、ずっと笑い転げて、腹の皮がよじれて本当に椅子から落ちそうになりました。苦笑とか失笑ではなくて、大笑いしてしまう。興行的にも大成功したので、アメリカでは今でも『ボラット』というだけでみんな笑い転げちゃいます。アメリカには、こういう笑いを受け入れる鷹揚な部分があるんです。「俺たちってほんとにバカだよな。アハハハ」って。

 日本は狭苦しいというか、小真面目というか、冗談を認めないところがありますね。バカなことは「アハハ」と笑っておいたほうが身体にいい。人生、笑った者勝ちというか、大笑いすれば免疫力も上がって、ウイルスに対抗できそうです(笑)。

マイク・ペンスも仰天

 この『ボラット』の第2弾が、『続・ボラット』(2020)。第1作には及びませんが、強烈な破壊力で充分に笑わせてくれます。

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source : 文藝春秋 2021年5月号

genre : エンタメ 映画