台湾:戦略的曖昧性と戦略的明瞭性

新世界地政学 第118回

ニュース 国際 中国

 先月の日米首脳会談後に発表された共同声明は、「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と明記した。

 日米共同声明で台湾に言及したのは1969年の佐藤・ニクソン会談後、52年ぶりのことである。この時は、「台湾地域における平和と安全の維持も日本の安全にとって極めて重要な要素」であるとの文言が入った。それに比べても、今回の文言は、ことさらに事務的である。実のところ、米国側は台湾防衛に関する日米協調のあり方に向けてもう少し踏み込んで書き込もうとしたようだが、日本側は慎重な言い回しを望んだと言われる。

 ワシントンでは日本側の煮え切らない姿勢に不満の声が上がっている。かつてペンタゴンの中国部長を務めたジョセフ・ボスコは、次のように述べている。

「日本は尖閣では中国の冒険主義に対する抑止力強化のための戦略的明瞭性の必要性を認識しており、米側にそれを求め、手にした。しかし、台湾に関しては、中国の攻撃に対する明確な対応へのコミットメントに抵抗している。そうした曖昧性が中国をさらに付け上がらせる」

 ソ連に対抗するため対中接近を図ったニクソン政権以降、米国の歴代政権は台湾海峡問題に関しては基本的に「戦略的曖昧性」の方針を踏襲してきた。「戦略的曖昧性」は、中国が台湾を軍事攻撃した場合、米国は台湾に対する軍事支援のために駆けつけるかどうかを明確にしないことで、台湾の独立宣言と中国の強制的統一攻勢の双方を同時に抑止することを企図したものである。

 1990年代半ば、中国は台湾総統選挙を前にミサイル発射で威嚇したことがあった。その時、クリントン政権高官は中国側に対して、中国が台湾に侵攻した場合、米国が何をするかを「我々は知らない。あなた方も知らない。すべて状況次第だ」とだけ述べた。「戦略的曖昧性」を象徴するような言葉である。

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source : 文藝春秋 2021年6月号

genre : ニュース 国際 中国