最近、面白い北朝鮮ものの本を読んだ。1つは脱北作家金平岡氏によるドキュメンタリー小説『豊渓里(プンゲリ) 北朝鮮核実験場 死の情景』。北朝鮮がなぜ核にあれほどこだわり続け、ついにアメリカも無視できない核能力を身につけたのか。金日成にまでさかのぼってその野望の歴史を詳細に跡づけている。
金日成は建国当初から、北朝鮮を守るためには核の力に頼るほかないと考え、継続的に優秀な学生を選んでモスクワ大学、ベルリン工科大学などに送りだし、核技術を身につけさせた。そしていち早く核実験場も自力開発しようと考え、その候補地に選んだのが、咸鏡北道吉州郡の中でも最も自然豊かな地、豊渓里だった。豊渓里はマツタケとヤマメがとれる場所として全国に知れ渡っていた。特にマツタケは有名で、日本人に好まれ、どんどん輸出された。主要な外貨の獲得手段となっていたが、あるときから核実験場のマツタケに放射能の有無を調べるテストが導入され、それ以降、日本への輸出量がガタ落ちになったという。
サブストーリーとしてかつての北朝鮮有力者張成沢と金正日の実の妹金敬姫のロマンスがある。しかしその後、張成沢は金正恩委員長の不興を買い、粛清されるという恐るべき血縁(義理)内殺人事件に世界は恐怖した。
張成沢が、本当のところどのように処刑されたかは、必ずしも明確でない。シンプルに射殺されたという人もいるが、高射砲を使って正面から爆殺されたとも伝えられる。金正恩という人は怒るととんでもないことを平気でやる人と伝えられるから、どんな話を聞いてもそれもあるかなと思ってしまう。
その金正恩が新たな動きを見せている。
9月20日、文在寅韓国大統領と金正恩朝鮮労働党委員長は、3日間にわたった首脳会談を終えて中朝国境地帯に横たわる白頭山(中国名長白山)に四輪駆動車で登った。白頭山は、民族的天地創世神話(檀君神話)によると、朝鮮民族の始祖檀君が天下った地とされている。神話のたぐいを信じない北朝鮮でも、ここは建国の父金日成の抗日パルチザン時代の拠点。やはり民族発祥の地だ。
白頭山全体は火山で、頂上部分には周囲12〜14キロメートルに及ぶ巨大で美しいカルデラ湖があり、天池と呼ばれている。天池は中国と北朝鮮両国が45%対55%の割合で共有している。白頭山は火山活動を久しく停止しているが、古記録によると、日本の平安時代、江戸時代などに噴火を起している。なかでも10世紀前半の噴火は超特大で、日本にも火山灰を降らせ、その痕跡が各地に残っている(白頭山苫小牧テフラ=火山灰層)。白頭山の火山活動が活発化する兆しは今のところないが、韓国紙の報道によると、火山性地震の観測などからこれから4、5年内に噴火する恐れがあるという。白頭山が本格大噴火すると、ポンペイに最期の日をもたらしたヴェスヴィオス級の大噴火になる可能性もあるという。
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source : 文藝春秋 2018年11月号