沈壽官(ちんじゅかん・陶芸家)
秀吉の朝鮮出兵の際、初代が島津家に連行されてから423年。司馬遼太郎の小説『故郷忘じがたく候』で描かれたように、沈一族は薩摩半島の山間で「薩摩焼」を造り続けてきた。しかし同じ営みを続けてきたわけではない。歴代当主は絵模様を描く技法や、すかし彫りなど、創意工夫をこらしてきた。
「伝統は革新の堆積である」
15代・沈壽官(61)の言葉だ。早稲田大学を卒業後、京都で修業し、その後、イタリア国立美術陶芸学校でデザインの重要性を体得。99年に襲名すると、従来の大量生産に背を向け、職人の技と作り手の感性を融合させる工房を作り上げた。
「デジタルの時代だからこそ、人間にしか作れないアナログの価値が高まっています。高度なアナログを生むのは上質なローカル。私は、海の民と陸の民の文化が出会う場所であり、武を貴ぶ島津家の美意識が今も息づく鹿児島にこだわりたい」
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source : 文藝春秋 2021年7月号