ジェスミン・ウォード著 石川由美子訳「骨を引き上げろ」

文春BOOK倶楽部

佐久間 文子 文芸ジャーナリスト
エンタメ 国際 読書

時代を超越した古典の風格を持つ小説

 全米図書賞受賞作。ジェスミン・ウォードはこの後、『歌え、葬られぬ者たちよ、歌え』でも受賞しており、同賞を2度受賞するのは女性作家として初めての快挙だという。

 本作は、2005年に多数の死者を出した超巨大ハリケーン、カトリーナが襲来するまでの12日間を、ある家族の日常風景として1日ごとに描く。その「情け容赦のない語り」はすごみのある美しさをたたえ、みごとな構成とともに、時代を超越した古典の風格をすでにしてそなえている。

 主人公は15歳の少女エシュ。母親は7年前に末っ子を出産した際に亡くなっており、父と2人の兄、母の忘れ形見である弟と、母の実家である「ボア・ソバージュ(=フランス語で粗野な、野生の森という意味)」で暮らしている。家は貧しく、エシュは兄が白人の家に盗みに入るのを手伝ったりもする。

 小説の中では、母のイメージがくりかえし変奏される。第1日は、次兄のスキータが飼っているピットブルのチャイナの出産場面から始まる。スキータはチャイナを溺愛していて、闘犬の賞金や、チャイナが産んだ子犬を売って金を稼ぐことに望みを託している。チャイナは、生んだ子犬を噛み殺す獰猛な母でもある。

 エシュの内部では、亡き母の声が何度も再生される。エシュは、兄たちの友人であるマニーの子を身ごもっているが、そのことを誰にも言えない。母の声や、ギリシャ神話の王女メディアの物語を思い出して、答えの出ない問いを考え続ける。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!

初回登録は初月300円

月額プラン

1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

12,000円一括払い・1年更新

1,000円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き
雑誌プランについて詳しく見る

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2021年11月号

genre : エンタメ 国際 読書