日本が世界に誇る映画監督・黒澤明(1910~1998)。代表作の「椿三十郎」と「赤ひげ」で、三船敏郎が演じる浪人や町医者に導かれて成長する青年に扮した加山雄三氏は、俳優を辞めようかと悩む自分を、役柄にだぶらせていた。
加山さん
「椿三十郎」で初めてお会いしたとき、25歳だった僕に黒澤さんは言いました。
「お前は白紙でいいからな。余計なことをやろうとするな」
監督が自由に絵を描くから、という意味です。よく「おい、生まれっ放し」と呼ばれたものです。
「台詞なんか覚えなくていい。思えば出てくるものだよ」
とも言われました。役になりきれば、台詞は自然に出てくる。そうなるまで訓練せよ、という教えです。
細部へのこだわりは、噂通りでした。本読みの段階から衣装をつけ、劇中で使う真剣は、撮影所の中を歩くときも腰に差したまま。重さで帯が傾くリアルを求めていたんです。
黒澤明
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source : 文藝春秋 2022年1月号