女優でテレビ司会者、ベストセラー『窓ぎわのトットちゃん』でも知られる黒柳徹子(88)は、1984年からユニセフ親善大使の活動を続けている。親善訪問に毎回同行する写真家の田沼武能氏が回想する。
「トット! トット!」
1984年、初めて訪れた東アフリカのタンザニアでのこと。村長が子どもたちに向かってそう黒柳さんの愛称を叫んでいる。実は、ここでの「トット」は、スワヒリ語で子どもという意味。そんな偶然の一致から私たちの活動ははじまりました。
内戦や自然災害、干ばつなどによる飢餓や貧困に苦しむ子どもたちの前では、黒柳さんは一度たりとも涙を見せたことはありません。
「触れ合うことが大事だ」と言い、カンボジアの孤児院では子どもたちにこわれ背中に乗せてお馬さんになったり、どの国の子どもも彼女には警戒心を解いて笑顔になるんです。
いちばん危ない目に遭った国は1996年、紛争直後のボスニア・ヘルツェゴビナ。地元警察が、私たちのバスを略奪しようと数時間拘束した。そんな状況下でも、彼女は歌を歌ってみんなの気が紛れるようにしてくれました。さらにはバスから出ていってやっと見つけたお店でトマトを籠いっぱいに買い、それを警察署内で洗ってみんなにふるまった(笑)。
黒柳徹子
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source : 文藝春秋 2022年1月号