反ワクチン派の淵源を解き明かす
アメリカでは、新型コロナウイルス対策のためのワクチン接種をめぐって対立が起きています。今年に入っても1月、バイデン政権が従業員100人以上の企業に対し、従業員にワクチン接種か週1回の検査を義務付けたところ、全米の半数以上の州が「憲法違反」を理由に差し止めを求めて提訴。これを受けて連邦最高裁判所が差し止めを命じました。理由は、担当する政府の労働安全衛生局に「公衆衛生を規制する権限はない」というものでした。
最高裁の判事は9人。保守派の6人は差し止めを支持し、リベラル派3人は差し止めに反対しました。ワクチン接種をめぐって、アメリカで分断が広がっていることを示していますが、そもそも半数以上の州が義務付けに反対しているのには驚きです。アメリカでは、どうしてワクチン接種に反対する人がいるのか。その淵源をアメリカの憲法や法律から解き明かしたのが、本書です。
実はアメリカの経済学者だった著者は、2018年に死去しています。つまり本書はコロナの感染拡大に触発されたのではなく、過去に天然痘のワクチン接種に反対する人たちがいたことを分析しているのです。
なぜアメリカには、ワクチン接種に反対する人がいるのか。それは、「反ワクチン主義者は、公的ワクチン接種プログラムを拒否し抗議する権利を、言論の自由や私有財産権と同じくらい基本的な権利だと考えていた」からなのです。
アメリカ人が天然痘のワクチン接種プログラムに非協力的になった契機は、南北戦争後、合衆国憲法修正第14条の成立と批准であるというのです。修正第14条は、「いかなる州も、法の適正な過程によらずに、何人からもその生命、自由または財産を奪ってはならない。いかなる州も、その管轄内にある者に対し法の平等な保護を否定してはならない」というものです。
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source : 文藝春秋 2022年3月号