“食”を通じて人を見つめる
映画『それから』や『阿修羅のごとく』、テレビドラマ『家族ゲーム』、『センセイの鞄』などで知られる脚本家・筒井ともみが、忘れられない人々を、「食」をめぐるエピソードを軸に回想したエッセイである。
登場するのは、加藤治子、松田優作、深作欣二、北林谷栄、久世光彦、和田勉、岸田今日子、藤田敏八、向田邦子、樹木希林……といった錚々たる顔ぶれ。芸能界だけでなく、佐野洋子、須賀敦子、松本清張などの作家との縁も描かれる。
向田邦子をはじめ、脚本家にはエッセイの名手が多いが、筒井ともみもそのひとり。衒いのない文章の中に、はっとさせられる情景が差しはさまれる。
たとえば、『それから』に主演した松田優作のこと。筒井が松田を思い出すとき、浮かんでくるのは、鍛えられた長身の身体でも鋭い眼光でもなく、指なのだそうだ。
松田は〈根もとから指先までほぼ同じ太さ〉で、〈関節のシワとかゴツゴツもない〉〈手の甲に静脈も見あたらない〉という変わった指を持っていた。あるとき筒井は、松田とカウンターで並んで寿司を食べた。〈不思議なゴム手袋みたいな指〉で静かに寿司をつまむ松田を見て、彼女は奇妙な感覚にとらわれる。
〈このヒト、もしかしたら、アンドロイドじゃないかしら〉
そして、松田があっけないほど早く死んでしまったあと、筒井は思うのだ。まるでアンドロイドが消滅したようだと。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2022年3月号