筒井ともみ「もういちど、あなたと食べたい」

文春BOOK倶楽部

梯 久美子 ノンフィクション作家
エンタメ 読書 グルメ

“食”を通じて人を見つめる

 映画『それから』や『阿修羅のごとく』、テレビドラマ『家族ゲーム』、『センセイの鞄』などで知られる脚本家・筒井ともみが、忘れられない人々を、「食」をめぐるエピソードを軸に回想したエッセイである。

 登場するのは、加藤治子、松田優作、深作欣二、北林谷栄、久世光彦、和田勉、岸田今日子、藤田敏八、向田邦子、樹木希林……といった錚々たる顔ぶれ。芸能界だけでなく、佐野洋子、須賀敦子、松本清張などの作家との縁も描かれる。

 向田邦子をはじめ、脚本家にはエッセイの名手が多いが、筒井ともみもそのひとり。衒いのない文章の中に、はっとさせられる情景が差しはさまれる。

 たとえば、『それから』に主演した松田優作のこと。筒井が松田を思い出すとき、浮かんでくるのは、鍛えられた長身の身体でも鋭い眼光でもなく、指なのだそうだ。

 松田は〈根もとから指先までほぼ同じ太さ〉で、〈関節のシワとかゴツゴツもない〉〈手の甲に静脈も見あたらない〉という変わった指を持っていた。あるとき筒井は、松田とカウンターで並んで寿司を食べた。〈不思議なゴム手袋みたいな指〉で静かに寿司をつまむ松田を見て、彼女は奇妙な感覚にとらわれる。

〈このヒト、もしかしたら、アンドロイドじゃないかしら〉

 そして、松田があっけないほど早く死んでしまったあと、筒井は思うのだ。まるでアンドロイドが消滅したようだと。

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source : 文藝春秋 2022年3月号

genre : エンタメ 読書 グルメ