半世紀が経ち、元革マル派幹部の答えは?
「川口大三郎君虐殺事件を知っていますか」
事件が起きてから48年後の2020年初夏、著者は早稲田大学文学部の前で男女10人の早大生に「彼」の事件について尋ね、全員が「知りません」「聞いたことがありません」と答えたという。
著者より一回り下の私は、そういう事件があったこと、早稲田の学生だった村上春樹の『海辺のカフカ』の中に、事件を思わせる描写があることは知っていたが、事件の詳細や、事件のあとで何が起きたかは、この本を読んで初めて知った。キャンパスを覆っていた当時の空気も。
1972年。浅間山荘事件が世間を震撼させ、時代の転換点となった年だ。この年の11月、第一文学部2年生だった川口君の遺体が東大医学部附属病院前で発見される。前日の昼間、キャンパス内で革マル派に連れて行かれ、自治会室で激しい暴行を受けた末の死だった。彼が連れて行かれるのは複数の学生も見ており、連絡を受けて教員が教室に来たが、入室を拒まれ引き返した。
革マル派は犯行声明を発表、川口君は中核派のメンバーでスパイ行為があったとした。だが、彼は中核派ではなかった。革マル派は、一般学生を敵対する組織の一員と誤認して凄まじいリンチを加え、無残に死なせたのだった。
学生の怒りはすさまじかった。川口君の1学年下にあたる一文の学生だった著者も、革マル派が支配していた自治会を学生の手に取り戻すべく、動き始める。臨時執行部の委員長に選出されるが、革マル派から激しい妨害を受け、暴力もふるわれる。今も夢に見るほどの重傷を負って、活動から手を引いた。
卒業後、朝日新聞記者になった著者は、定年退職し、ほぼ半世紀ぶりに取材を開始する。
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source : 文藝春秋 2022年3月号