昨年の12月、3週間ほどカンボジアに滞在した。2004年に私が創設した国際医療NGO「ジャパンハート」は東南アジアの途上国で医療支援を行っており、現地では小児がんなど難病の子どもの手術に連日、取り組んだ。
新型コロナの感染拡大の影響で、日本からの医療専門家のボランティアだけでは活動が停滞するようになったため難病の治療には私が直接、足を運ばざるをえなくなった。昨年は4回、渡航し、1回あたり100件ちかくの手術をする。
私が医師を目指したのは、海外で医療活動をしたいと思ったからだった。あるNGOの一員として、ミャンマーで医療活動を始めたのは1995年、30歳のとき。医師になって4年目で、まだ半人前だという思いはあったが、ここで踏み出さないと一生、行動に移せないと思い、勤務先の病院を辞職し飛びだした。
文字通り聴診器だけを持って単身、手術の設備どころか麻酔も十分にできない環境で治療に取り組んだ。しかし周囲で活動していた国際機関の目は冷ややかだった。
「あなたの活動にはサステナビリティ(持続性)がない。一人一人をコツコツと治療したところで、あなたが日本へ帰った後はどうするの? 大事なのは現地スタッフが継続的に自力で行えるようにする活動だ」
私を批判する人々は、主に公衆衛生や感染症の予防活動など「保健」に取り組んでいた。これだと同じ費用でも手間のかかる治療行為より、「効率的に」多くの命を救えるかもしれない。現地スタッフに任せることもできる。
そうした考えも理解できなくはないが、難病に苦しむ患者を目の当たりにしている私がやっていたのは「医療」であり、私は全面的には共鳴できなかった。そこで自分の理想とする「医療」活動に取り組むため設立したのが、ジャパンハートである。
いま、私の活動に疑問を呈した人々の姿は現地にない。しかし私たちは活動を続けており、東南アジアだけでなく、日本のへき地・離島などの医療支援や新型コロナのクラスター支援、小児がんと闘う家族のサポートなどに取り組んでいる。
それが評価され昨年、菊池寛賞を受賞したが、私は授賞式でこんなスピーチをした。
「どの人間の本能にも備わっている、困ってる人を助けたいという想い。それ以上にサステナブルなものなどないのではないでしょうか」
NGOなどの支援団体が巨額の予算を投入すれば、一時的に現地の衛生環境や死亡率は改善されるだろう。しかし予算は無限ではない。それが尽きて支援団体が去れば、元にもどってしまう。
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source : 文藝春秋 2022年4月号