メタバースを作った

巻頭随筆

藤井 太洋 SF作家
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 2020年の2月、渡航禁止になる前に日本に遊びにきた友人が「世界SF大会(ワールドコン)がバーチャル開催になる」と耳打ちしてくれた。客もまばらな飯田橋のカフェをぼんやりと眺めた彼は「できるかどうかわからないけどね」と不安そうに付け足した。

 SF作家の私も気持ちは同じだった。

 世界SF大会――ワールドコンは世界中のSFファンや作家、関係者が集まるイベントだ。5日間の会期中、開催都市に集まった4000人ほどのSFファンや作家たちが100を超えるパネルディスカッションを聴き、あるいは登壇し、大好きな作品について語りあい、ホテルのロビーで深夜までSF談義を続ける催しだ。歴史あるヒューゴー賞もワールドコンの参加者投票で決まる。訪れた街で作家やファンに出会い、旧友を見つけたらハグして自著を交換する。

 この全てがワールドコンだ。

 パネルディスカッションだけならビデオ会議を配信すればいいし、ヒューゴー賞の発表も同様だ。しかし、ワールドコンを特別なものにしている交流だけは再現できそうもない――それが、私と友人の至った結論だった。

 国境を跨いだ移動がほとんどできなくなった4月になると、正式にオンライン開催を通知した主催団体からボランティアを呼びかけるメールが届いた。私は何か手伝えないかとリストを熱心に眺めた。IT分野で手伝えることもあるだろうと思ったのだ。

 ビデオ会議・配信システム、絵画のダウンロード販売など、初めてのオンライン開催に向けて募集しているリストの中に並んでいた「オンライン展示会場エキシビションホール」に、私は目を止めた。

 書店やゲームショップ、各地のSFファン交流団体がテーブルを出して物品を売ったり持ち込んだ同人誌やチラシを配るエキシビションホールは私が最も長い時間入り浸っている場所で、オンラインで再現できないと思っていた機能の1つだった。

 私が参加の意を告げると、すぐにズームでスタッフ会議が開かれた。参加したのは企画側の2人と、音声参加したジャックと名乗るエンジニア、そして私の4人。決まったのは「スクイッドホール」という会場の名前とボスがジャックで私がアシスタントという開発体制だった。

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source : 文藝春秋 2022年5月号

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