一人の時間を愉しむ術を身に付けよ
「孤独は現代の生活の悲しい現実です」。2018年1月、テリーザ・メイ英首相はこう語り、孤独担当大臣を新設した。日本でも独居老人、孤独死、孤食などの言葉が示す通り、「孤独」は近年、社会からネガティブな評価を受けてきた。しかしいま、孤独を前向きに捉える本が次々と話題になっている。作家の下重暁子氏(82)の『極上の孤独』(幻冬舎新書)はその代表だろう。孤独の愉しさを謳った同書は、27万部を超えるベストセラーとなっている。定年後も無理して群れる必要などあるのか、むしろ孤独の愉しみこそ至高の資産なのではないだろうか。
定年を迎えて、毎日会社に行くこともなくなる。子供はすでに巣立ってしまい、家にいたって、長年連れ添ってきた妻とも喋ることもなく、ペットにも相手にされない(笑)。定年後に訪れるであろう“孤独”を、これまで多くの方々が否定的に捉えていたと思うのですが、決してそんなことはありません。
孤独は愉しい。好きな本を読み、妄想にふけることもできる。誰にも邪魔されない自由もある。『極上の孤独』では、そんなことを書きました。
すると、本を読んでくださった方から多くのお便りをいただきました。普段、私の本を買ってくださるのは女性が多いのですが、今回は男性も非常に多かった。それも40〜50代の方。一番多かった意見は、「ホッとしました」というものです。「一人で生きていたっていい。一人だって淋しくないんだ」と。恐らく多くの皆さんが、前々から「孤独って悪いことばかりではないんじゃないか」と思っていたけど、世の中の風潮に流されて、なかなか言い出せずにいた。それが今回、私の本によって肯定された気持ちになれたのかもしれませんね。
いまは、人と人のつながりの重要性ばかりが強調されすぎています。スマホなどの機器を通じて容易につながることができるから、逆に、常に人とやりとりをしていないと不安になる人が多い。SNSで「いいね!」を押し合うのは、互いの不安を紛らわしたいがため。私も最近、若い友人に勧められて3人の人を選んでLINEを始めましたが、自分がメッセージを送って、相手が「既読」となっているのに返事がこないとつい気になってしまいます。SNSは便利だけど、危険なツールでもある。つながる社会ほどしんどいものはないんです。
昨年10月、座間市で9人もの若者が殺害される痛ましい事件が起こりました。逮捕された白石隆浩容疑者は自殺を希望する女性を「一緒に死のう」と誘い、自宅で殺害していました。しかし白石容疑者によると、女性たちは当初SNS上で「死にたい」と書いていたのに、実際に会ってみると、誰一人本当に死を考えていた女性はいなかったそうです。ただ淋しくて、誰かに話を聞いてほしかっただけ。SNSをしていても、誰も自分のことをかまってくれないし、自分の話に耳を傾けてくれなかった。だから白石容疑者の毒牙にかかってしまった。
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source : 文藝春秋 2018年08月号