「遺族外来」で家族との死別を癒す

奥野 修司 ノンフィクション作家
ライフ 読書 医療

真剣に話を聴いてもらうことで人は立ち直っていく

家族ケアのかたち(写真は本文と関係ありません) ©iStock

「夫を亡くしてからずっと泣き明かしておりましたが、あの本と出会ってから、魂の存在を感じられるようになりました。先日も、2歳にならない孫が仏間の天井の隅を目で追っていました。あれは夫の魂ではないか、私たちを見守っているのではないか。そう思ったら、夫がそばにいるように思えたのです」

 こんな手紙が私の手元に何通も届いた。「あの本」とは、私が昨年出版した『魂でもいいから、そばにいて』(新潮社)だ。東日本大震災の津波で最愛の人を喪った遺族の、魂や霊の存在を感じさせるような、不思議としかいいようのない体験を綴ったものだ。それは同時に、不思議な体験をきっかけに、大きな悲しみをかかえた遺族が自己回復していく“物語”でもあった。

 その感想としていただいた手紙の多くは、意外にも東北の被災者ではなく、がんなどの病で大切な家族を喪った人たちからだった。

 私はこの本の中で、人は物語を生きる動物である、と書いた。それまで大切な人と紡いできた物語が、津波による突然の死と共に断ち切られたとき、遺族は耐えがたい悲しみにつつまれる。しかし、死後に起こった些細な体験をきっかけにして新たな物語が紡ぎ直され、亡くなった人と今を生き直すことができれば、悲しみと折り合いをつけることもできる。それは人に備わった自己治癒力ではないだろうか。同じように納得できる物語を創ることができるなら、大切な家族を病で喪った遺族の悲嘆も小さくできるはずだ。

 そんなことを考えていた時、1冊の本に出会った。大西秀樹医師の『遺族外来』(河出書房新社)だ。著者は埼玉医科大学国際医療センターの精神腫瘍科の医師である。読み終えたあと、こんな感想を持った。

 遺族は大きな悲嘆をかかえても、必ず自己回復する力を持っている。そのために私たちが手を差し伸べる方向を大西医師は示しているのではないか――。

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source : 文藝春秋 2018年06月号

genre : ライフ 読書 医療