なぜ彼らは安倍改憲案を批判しないのか
同時期に京都大学総合人間学部で教鞭をとっていた中西輝政氏(70)と佐伯啓思氏(68)。中西氏は国際政治史、佐伯氏は社会思想史という専門分野を起点に、1990年代から日本社会に鋭い文明批評を投げかけてきた。保守派の重鎮とも目される2人が、安倍政権、憲法改正、保守論壇について語りあった。
佐伯 現在の日本において「保守/リベラル」、「右翼/左翼」という構図で社会を論じることはほとんど無意味になっています。戦後日本のリベラル=左翼は、反権力・反政府で、個人の権利を大切に、という姿勢を保ちつつ、憲法9条を守ることを主眼とした「護憲」を錦の御旗のようにしてきました。ただ、これは冷戦構造の中で日米安保を意図的に無視しつつ生まれた“ムード”に過ぎず、冷戦終結後には政治思想としての存在意義を失っています。一方、現在、保守=右翼と目されている陣営の劣化も甚だしい。右派的論陣を張る雑誌や、いわゆるネトウヨ(ネット右翼)は、いまだに「中国何するものぞ!」「韓国はけしからん」「朝日新聞は気にくわない」といった議論ばかりしており、実態を失った左翼に追撃を加えて自己満足しているように見えます。
中西 私も佐伯さんの現状認識に賛成です。特に強調したいのは安倍政権の歴史認識に対する右派論壇の無原則な態度です。例えば日韓の「慰安婦合意」は自分たちがあれほど強く批判してきた「河野談話」よりも謝罪を前面に押し出したものなのに、保守メディアから強い批判はほとんど起こらなかった。日本の保守の道徳的劣化を象徴する出来事だったと思います。
石破案のほうがまとも
中西 保守を論じる上で歴史観と並んで避けて通れないのが憲法改正です。自民党の憲法改正推進本部がまとめた改憲案は、安倍首相の意向に沿って9条第1項(戦争放棄)と第2項(戦力不保持)を維持しつつ、新設の「9条の2」に「必要な自衛の措置をとることを妨げない」と規定したものになりました。首相は2020年の改正憲法施行を目指すとしていますが、今後、案から正式に条文化する過程でまだ相当もめそうです。
佐伯 政治的思惑があるのかもしれませんが、僕は、安倍首相案は理解できません。かつての安倍さんの主張と隔たりが大きい。現実に自衛隊があるのに「戦力の不保持」という文言を残すのは欺瞞以外の何物でもない。
原理原則から言えば、かつて福田恆存が主張したように現在の日本国憲法は破棄すべきです。他国に占領された、主権を持たない国が憲法を制定するという事態は、そもそも国の根幹を形づくる「憲法」の主旨に反する。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 該当の画像が無かったので未設定です