検事総長人事暗闘史「根来泰周メモ」公開

村山 治 ジャーナリスト
ライフ 社会

“伝説の検事”とトップの座を争った男が覚書を残していた

「不動の検事総長候補」根来泰周氏 ©時事通信社

 ロッキード事件で元首相の犯罪を暴き、検事総長にまで昇りつめた伝説の検事、吉永祐介(検事総長在任1993年12月〜96年1月。2013年6月逝去)。その吉永をしのぐ「不動の検事総長候補」といわれながら、吉永との確執から検察ナンバー2の東京高検検事長で退官し、その後、公正取引委員会委員長やプロ野球コミッショナーを歴任したのが、根来泰周(13年11月逝去)だ。実は根来は亡くなる数年前に検事時代を回顧する覚書を認(したた)めていた。

 根来が法務事務次官在任当時(90年6月〜93年12月)、政界のドンの闇献金事件の捜査をめぐり、政権与党から官邸を通じて際どい打診があったことなどを実名で記し、法務・検察首脳人事についても率直な肉声を記録した貴重な資料である。だがこれまで一切公表されておらず、法務・検察の間でも覚書の存在自体、ほぼ知られていない。

 筆者は先月号で、法務・検察のプリンスといわれてきた名古屋高検検事長の林真琴の事務次官昇進の人事案が、先任次官の黒川弘務の留任にこだわる時の政権によって3度、はねつけられたこと、政治の介入によって検事総長人事にも影響が出始めていること、などを明らかにした。

 そもそも政治腐敗ににらみを利かせる検察は、政治から独立していなければならない。法務・検察の幹部人事への政治の安易な介入を許せば、検察の矛先は鈍り、検察に政治腐敗監視を期待する国民にとって、大きな損失につながりかねないからだ。

 しかし実際には、過去にも政治からの介入や検察内での検事総長人事をめぐる争いがあった。その時、法務・検察幹部はどうふるまったのかを知り、現在起きている問題を考えるうえで、根来の遺したこの文書は極めて示唆に富む(以下〈 〉内は根来の覚書より。明らかな誤字脱字は筆者が訂正し、( )内に理解しやすいよう補足説明を加えた)。

石原副長官からの電話

 90年代初めのバブル崩壊のあおりを受けて大手運送会社、東京佐川急便(現・佐川急便)の巨額不正融資が発覚し、社長の渡辺広康らが解任されたのは91年夏のことだった。東京地検特捜部は翌92年2月、渡辺らを特別背任容疑で逮捕、渡辺は特捜部に対し、有力政治家12人に計20数億円の闇献金をしたと供述。同年8月22日には、朝日新聞の報道で、当時政界随一の実力者といわれた金丸信に5億円が提供されていたことが明るみに出た。

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source : 文藝春秋 2018年05月号

genre : ライフ 社会